第3章 やって来たパパ(その22)
「つまり、お父さんは、今日、僕と会って、僕と奈菜ちゃんの間に何があったのかを聞き出すおつもりでいろいろと準備をされてきた、ってことですよね。
それなのに、その一方の当事者である奈菜ちゃんには、何の話もされてない。
と、いうことは、どういうことなのでしょう?」
哲司はひとつの賭けに出た。
最初は、やはりこれからの奈菜とのこともあるから、極端な対立だけは避けておこうと考えていた。
事実は事実として素直に説明をするが、仮にこれからのことで意見の相違があったとしても、それは聞き流しておこうと考えていた。
つまり、受身的な立場でいようと。
店長やマスターからはこれからの2人について、一定の自由裁量を与えてもらった気がするが、やはり最後は何と言ってもこの父親との関係だろう。
一般論としては、好きになった女の子と付き合うのに、いちいちその女の子の親を意識したりはしないし、そんな必要も無いと思っている。
結婚をしようとでもなれば、それは形式的にもその両親の存在も考えることにはなるが、単に、彼氏彼女として付き合うだけの場合は、あくまでもその本人の想いだけが重要なのであって、両親などは眼中に無い。
ただ、今回の奈菜とのことについては、ひとつは奈菜がまだ高校生であるということと、既に妊娠をしている身体であるという特異な事情がある。
おまけに、事実ではないものの、どうやらその妊娠の責任が自分にあるかのように疑われている節がある。
これだけの悪条件が重なっているのだから、この時点で父親と相当深くまで突っ込んだ話があっても、それは不思議なことではない。
ただ・・・・・・。
「僕のことは、何らかの方法でいろいろとお調べになったんだろうと思います。
それを今更怒ったりするつもりはありません。
でも、そこまでされなくても、本当は、奈菜ちゃんにこの僕を家へ連れてくるようにおっしゃればそれで済んだことなのではないですか?
ごく普通の家であれば、きっとそのように言われるのだと思いますよ。
奈菜ちゃんにしたって、いつまでも、こうしたことをうやむやのままでは済まないことぐらいは分っていると思うんです。
ですから、一度、僕を家に連れて来い。一緒に話を聞こう。
そのようにおっしゃったら、それで良かったんじゃないかと。」
哲司は、自分へのアプローチが少しおかしいのだと言いたかった。
「それは、あの子に何度も言いました。
済んでしまったことは今更どう言っても元へは戻らない。
だから、これからのことを互いに考えようじゃないかと。」
「ほ、本当ですか?」
哲司には、余りにも意外なことのように聞こえた。
今まで聞かされていた父親のイメージからでは、まったく想像が出来なかった。
「でもね、あの子は“考えておく”というだけで、一向に前に進まなかったんです。」
父親は、最後に深い溜息をついた。
(つづく)