第3章 やって来たパパ(その21)
「じゃあ、その圧力っていうのをかけているのが、この僕だと?」
哲司は、目の前にいる奈菜の父親にそう言われたも同然だと感じる。
「いえ、そうは言ってないでしょう?
だからこそ、こうしてお話をお聴きしているんです。
私は、あの子の父親として、真実が知りたい。
何があって、このような結果になったのか、それが知りたいんです。」
父親は、そう言って哲司の目を睨みつけるようにして見つめる。
「それじゃあ、ひとつお聞きしてもいいですか?」
哲司は、話の角度を変えようと思った。
このまま、自分の主張だけを何度繰り返していても、納得されることはないのがはっきりとしたからだ。
時間の無駄である。
父親は、一瞬、少し首を傾げるようにしたものの、そのまま首を縦に振った。
話だけは聞こうという態度だと思われる。
「今日、こうして僕とこのような話をするってことは、奈菜ちゃんには言われたんですか?」
「いいや。
第一、君に事前に連絡が取れないものだから、今日、こうして会えるのかどうかも分らなかったし。」
「なるほど。
でも、それにしては、用意周到ですよね。」
「ん?・・・・・・・」
父親は、哲司が言わんとしていることが分らなかったようだ。
「つまりですね、本当に会えるかどうかも分っていないのであれば、ここのお店だって予約なんかされていなかったと思うんですが・・・。」
「・・・・・・・・・・」
「あのアパートの前で待っておれば、必ず僕を捕まえられるって思われていたんでしょう?
仕事をしているわけでもないし、学校へ行っているわけでもない。
だから、一時はいなくても、直ぐに戻ってくるはずだ。
そう思われていたんでしょう?
だから、じっと車の中で待たれていた。」
「・・・・・・・・・・」
「今日、初めてお会いするんですが、それでも僕の顔は既にご存知だったんでしょう?
だから、アパートの階段を上がりかけたところで声を掛けられた。
違いますか?」
「・・・・・・・・・・」
「2階にも、幾つもの部屋があるんです。
階段を上がる人間は他にもいた筈です。
そうした人間に、ひとりひとり声を掛けられた訳ではないでしょう?
僕が声を掛けられたのが、自分の部屋の前だったらその理屈も分りますが、そうではない。
2階へと上がる階段のところで声を掛けられた。
これって・・・・やはり、事前に僕の顔を確認されていたってことでしょう?」
奈菜の父親は、ひとつひとつ詰めてくる哲司の唇をじっと見つめているだけで、何ら反論をしない。
全てを肯定しているようにも取れる。
(つづく)