第3章 やって来たパパ(その17)
「で、でも、僕のことは奈菜ちゃんから聞かれたんでしょう?」
この部分も、哲司にとっては曖昧なままだった。
「う〜ん、・・・・私が問い質したら、しぶしぶそれを認めたってことかな。」
奈菜の父親は、その時の光景を頭に思い浮かべるかのように遠い目をする。
「じゃあ、奈菜ちゃんが僕と付き合っていると言った訳ではないんですね?」
「でも、・・・それは認めたんだ。」
「僕の名前はどこで?」
「う〜ん、私の妹、つまりは奈菜の叔母からだったんです。」
「じゃあ、その叔母さんは、奈菜ちゃんの口からこの僕と付き合っていると聞かれたのですか?」
「そう。好きな人だと言ったそうです。」
「そう言ってもらえるのは嬉しいのですが、それと現実に付き合っているということは違いますよね。」
「えっ?・・・・・それって、どういうこと?付き合ってはいないってこと?」
「はい、付き合っているのか? と訊かれれば、いえまだです、としか言いようがありません。」
「本当に?」
「はい、本当のことです。先ほどから何度も言ってますけれど。」
「じゃあ、奈菜が嘘を言っていると?」
「う〜ん、その辺りのニュアンスは分りませんけれど、付き合っていると言える段階では絶対にありません。」
それでも、父親は首を傾げるばかりだ。
哲司の言葉と奈菜の言葉のどちらを信用するかということではなくて、どうしてこんなずれた話になっているのだろうと考えているようだ。
「叔母さんは、奈菜ちゃんに“お腹の子の父親は誰なの?”とストレートに訊かれたのでしょうか?
どうも、そうではないような気がするんですが・・・・。」
哲司は、ようやくここで、店長から聞いた話を持ち出してみた。
どこまで父親が知っているのかを計るつもりだった。
「どうして?・・・どうして、そのように?」
「奈菜ちゃんが妊娠したってことは、どなたから聞かれました?」
「・・・・それは、・・・義弟からです。
実は、あの子がバイトをしているコンビ二は、私の家内の弟がやっているんです。
奈菜からすれば、母方の叔父にあたるんです。
だからこそ、信用して預けたんですが・・・。
その義弟から、あの子が妊娠をしているのではないのか?と言われたんです。」
「驚かれたでしょう?」
「そりゃあね。・・・・絶対に嘘だと思いました。ありえないことだと。」
父親は、ここで顔をしかめる。
「でも、それは事実だった?」
「・・・・・・・」
父親は、何も言わずにただ頷いた。
哲司は、絡んだ糸を解く糸口が見つかったような気がした。
(つづく)