第3章 やって来たパパ(その16)
哲司は今の気持のままでは食事など出来ないと考えた。
到底、喉を通る筈も無い。
「先に、お話の方を聞かせていただけませんか?」
哲司がそのように切り出した。
別にステーキが食いたくて付いて来た訳ではない。
「奈菜のことで話を聞きたい」と言うから車に乗っただけなのだ。
「まあ・・・・・、いいじゃないでかすか?食べながらでも。
それとも、この店がお気に召さない?」
奈菜の父親は、やや見下した言い方をする。
「いえ、そういうことじゃなくて、そのお話を先にしたいだけです。
どうやら、何を言っても、あんまり信じてもらってないようなので・・・。」
哲司はそこに拘っている。
事実をありのまま言っているのに、ひとつひとつ疑われている。
これでは、何の解決にもなりはしないと思う。
父親は、少し考えていたが、おもむろに部屋についているインターホンを押して言った。
「すまないけれど、料理は少し待ってくれるかな。大事な話を先に済ませたいんだ。」
「有難うございます。」
その対応を聞いていた哲司が礼を言った。
そして、ようやく父親の向かい側の席に腰を下ろした。
「ところで、奈菜ちゃんは僕とのことをちゃんと説明したんですか?」
哲司はそこから出発しようと考えている。
店長やマスターとの話でもそうだったが、当事者である奈菜本人がどうも全てを話していないのではないのか、という気がしてきているのだ。
それは、店長やマスターが、聞いてはいるのだけれど、哲司には言わないでおくべきだと考えて抑えている部分も当然にあるのだろうとは思うのだが、それにしても、奈菜の意思が明確には見えてこない。
その上に、この父親の話だ。
親子ならば、当然に事情はしっかりと聞いている筈なのだが、どう聞いていても、どこかに現実との大きなギャップがある。
それが奈菜がそう言っているからそうなるのか、それとも、奈菜がぼやかした言い方しかしないから、父親が疑いの眼差しで見ているのか、それすらも良く分らないのだ。
「う〜ん、・・・・・正直を言いますとね、・・・・・奈菜は私にまともには話をしてくれないのです。」
父親は、苦しそうな顔をした。
(つづく)