第3章 やって来たパパ(その14)
「凄いお店ですねぇ・・・・。」
哲司は、その外観から受ける印象とホテル並みの対応の良さに、相当な高級店だと思った。
「ここのオーナーシェフを知っているもので。」
奈菜の父親は、そう言いながらも、「どうだ!こんな店で食べたことは無いだろう」との無言の圧力をかけてきているようだ。
本人にはそんな意識は無かったのかもしれないが、少なくとも哲司のほうはそのように受け取った。
店の中に入ると、マネージャーのような男がやってきて、これまた丁寧に挨拶をする。
「田崎様、いつも有難うございます。」
「うん、いつもの部屋らしいね。」
「はい、ご希望通りにご用意をさせていただきました。」
ひとりのボーイがその部屋へ案内をするために先導する。
2人とも荷物は持っていないから、部屋が分っているならはそんな案内は要らないのに、と哲司は思うのだが、父親は黙ってその案内を受けるつもりのようだ。
どうやら、それもこうした店での対応の仕方らしい。
哲司は、次第に息苦しくなってくる。
案内されたところは中庭に面した広い部屋だった。
20畳ぐらいの広さがあるだろう。
そこに、たった2人の客である。
部屋の中央からやや窓際寄りにテーブルがセットされていた。
既に食器なども並べられている。
哲司はいよいよ帰りたくなってきた。
昼食にステーキでもどうか?と訊かれて、確かにそれを了承はした。
だが、哲司のイメージには、せいぜい街中のステーキハウスぐらいしかなかったのだ。
まさか、こんな遠くの、しかも個室が準備されるような店で食べるとは想像すらしていなかった。
これでは、どんなに旨いステーキでも喉をまともには通らないだろう。
だが、ここまで来て、今更引き返せない事は重々分っている。
だから、覚悟を決めなければならないのだが、それがなかなか出来そうにない。
「この店、ご存知でした?」
父親が訊いてくる。
知っている筈も無いだろうけれど・・・という裏の声も聞こえそうだ。
「いいえ、こんな高いところは・・・。」
哲司は素直だ。
「まぁ、2人だけだから、気が楽でしょう?
いろいろと話もしたいし。ゆっくりと寛いでください。」
片方の椅子を哲司に勧めながら、父親は上着を脱いだ。
(つづく)