第3章 やって来たパパ(その13)
「ん?・・・それは、どういう意味?」
父親が訊く。
「多分、奈菜ちゃんは僕がスノボーをやるんだと思っているだろうと。」
「そう言ったの?」
「いえ、言った覚えは無いんですが・・・。」
「だったら、どうして?」
「う〜ん、そこに勘違いがあるんですけれど。」
「勘違い?」
「はい、・・・・・。
たまたまなんですが、僕がスノボードを抱えて店に行ったことがあって。
それは、友達のを預かっただけだったんですが、それを見た奈菜ちゃんが僕もやるものだと思い込んだ・・・。って感じです。」
「それは意図的だったんじゃないの?」
「どうしてですか?どうして、僕がそんなことを意図してやる必要があるんです?」
「それは、あの子がスノボーが好きだからですよ。
それが分っていたから、関心を引こうとして見せ付けた。
違うんですか?」
「いいえ、違いますよ。
だって、僕は奈菜ちゃんがスノボーが好きだ何てこともまったく知らなかったんですから。
ホント、偶然なんです。」
「だったら、どうして“これは友達のものだから”と言わなかったんです?
そう言わないから、あの子がそう思いこんだんでしょう?」
「まぁ、・・・そう言われればそうなんですけれど・・・。」
哲司は、内心は「しまった」と思った。
意図がどうであれ、確かに勘違いをされていると分ったのに、それを積極的には否定しなかった。
それは事実である。
「それはいつ頃の話?」
父親は、哲司と奈菜の出会った時期を疑っている様子だ。
「ですから、それは奈菜ちゃんがバイトを始めてからですから、12月の終わり頃だったと思いますよ。」
「去年の12月?」
「はい、間違いありません。」
「もっと前だったじゃないの?」
「違いますよ。」
奈菜の父親は盛んに首を傾げていたが、やがて大きな駐車場を備えた店の前に車を寄せた。
それと同時に、中からホテルのベルボーイのような格好をした若い男の子が飛び出してくる。
「田崎様、お待ちいたしておりました。」
そう言って、頭を下げる。
相当な常連客のようだ。
「いつもの部屋かな?」
「はい。2名様でご用意させていただいております。」
奈菜の父親は、哲司にも降りるように促してから、自分も車を降りる。
ただ、エンジンは駆けたままである。
「では、お車、お預りいたします。」
その若いベルボーイが代わりに車に乗り込んだ。
(つづく)