第3章 やって来たパパ(その11)
「いいえ!嘘ではないです。断言します。」
哲司はそう言いながらも、やはりそのように誤解をしているのだという事実を確認する。
「だって、付き合ってるんでしょう?」
「誰がそんなことを?」
「・・・・・奈菜が・・・。」
「う〜ん、奈菜ちゃんからは付き合って欲しいというアプローチは貰っています。けれども、現実には、まだ何にも始まっちゃいません。
要は、これからってことです。」
「でも、奈菜は、貴方のことが好きだからと・・・。」
「そのように言ってもらえるのは嬉しいですが、まだお互い、そこまで知り合っちゃいませんよ。」
「でも、・・・・・一泊旅行でもしようかという仲だと・・・。」
「う〜ん、そんな話があったことは否定しません。
でも、そっから先、何も具体化してないんです。
いつ、何処へ、というものも・・・。」
「じゃあ、旅行に行くというのも嘘?」
「まぁ、嘘と決め付けるのは可哀想です。
奈菜ちゃんが、一緒に行かないかと誘ってくれたのは事実ですし。
でも、これだけははっきりと言っておきたいんですが、奈菜ちゃんが妊娠したことと僕はまったく関係がありませんよ。
第一、そうした行為があったとされる時期には、僕と奈菜ちゃんはまだ顔も合わせていないんですから。」
「えっ?・・・・・そんな馬鹿な・・・・。」
「馬鹿な・・・と言われても、それが事実だからそうとしか言いようがありません。」
「去年の夏頃じゃないの?」
「何が?」
「奈菜と出会ったの。」
「いいえ。」
「本当に?」
「本当ですよ。だから言ったとおりです。
この冬休みにバイトをするようになって、それで釣銭の間違いがあって・・・。」
「バイトをする前は?」
「知りませんよ。会ってはいないです。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
父親は車のスピード落とし始めた。
今の話が思っていたことと随分と違うから思い悩んでのことなのかとも思ったが、そうではなくて、どうやら次のインターで降りるようだ。
「どうも、納得が行きませんねぇ。」
「何がです?」
「奈菜から聞いたことと・・・。」
「どこか食い違っているところでもあると言うんですか?」
「・・・・・・・・・」
車は、インターを出て、一般道に入った。
哲司には、これで五分と五分になったという感覚があった。
(つづく)