第3章 やって来たパパ(その8)
「今日のこと、奈菜ちゃんは知っているんですか?」
今度は、哲司から話題を転換した。
腹立ちもあって、父親のアキレス腱を蹴ったつもりだった。
今朝から、奈菜はコンビニのバイトで入っていた。
そして、店長や喫茶店のマスターに頼んだのだろう、ここまでの経緯を大まかに伝えてきた。
その上で、「これからもよろしく」と、付き合うことを前提に対応してきている。
その同じ日である。
その奈菜の父親が哲司のアパートの前で待っていた。
つまりは哲司が戻ってくるのを待ち伏せていたのだ。
恐らくは、一旦は部屋まで来たに相違ない。
ノックをして名前を呼んだだろう。
だが、哲司は不在だった。
その時には、コンビニか、あるいはあの喫茶店にいたのだから。
奈菜と話が通じているのであれば、わざわざこんな手の込んだことをしなくとも、あの喫茶店で同席をして一緒に話をすれば済んだことだ。
それをこうして別行動を取っているということは、これすなわち奈菜には知らせていない行動なのだろうと想像する。
父親は黙ってハンドルを握っている。
ときどき、呼吸をするためなのか、口がパクパクと動く。
まるで金魚が水面に口を突き出して呼吸をするようだ。
だが、それでも、結局は言葉が出てこない。
どのように答えるべきかを考えているのか、それとも痛いところを衝かれたと一呼吸おいているのかは哲司には分らない。
「今朝、コンビニで会いましたよ。奈菜ちゃんと。」
哲司は追い討ちをかけるつもりはなかったが、こう黙られると、何か次の言葉を投げたくなる。
「ああ、そのようだね。
あのバイトも、義弟がやっているところだからと、安易に考えたのがいけなかった。
行かせるんじゃなかったと、今じゃあ、後悔してるんだが。
まあ、時既に・・・って奴だな。」
どうやら、コンビニのバイトを了承したのがことの始まりのように言う。
「高校生なんですから、バイトぐらいやるでしょう。普通。」
「そうかなぁ。ちゃんとした家の子だったら、そんなことしないでしょう?
必要もないんだし。
第一、もっと先にやるべきことがあるんですから。
勉強だって、まだまだだったのに。」
「じゃあ、バイトには反対だった?」
哲司は、もはや敬語を意識できなくなってきていた。
こうなりゃ、タメ口ででも話するか!
(つづく)