第3章 やって来たパパ(その7)
「どこまで行くんですか?」
哲司が訊く。
どこまで行くのでも構わないのだが、こうしたやり取りを延々とされるようではたまったものではない。
父親としては当然なのかもしれないが、「娘性善説」に立っていて、頭からこちらの言うことを信じようとはしてくれない。
こんな調子だと、話を聞くだけは聞いて・・との考えも捨てざるを得ないような気になってくる。
「旨いステーキを食わせる店があるんでね。」
高速道路に入ってからも、奈菜の父親は具体的な行き先は明かさない。
「ところで、巽さんは、お仕事は?」
インターから本線に車を乗せてから、父親が話題を変えた。
「今は何も・・・・。」
哲司の顔には明らかな怒りが浮き出ていただろうと思われる。
調べたのだから、聞かなくても知っているのではないか、との反発である。
「どうして、お仕事されないんですか?」
「・・・・・・・・・。」
「遊んで暮らせるのでしたらいいんですが、そうは行かないでしょう?」
「・・・・・・・・・・」
「どうやって生活されてるんです?」
「どうやって、とは?」
「ですからね、働いておられないということは無収入なんですよね?」
「・・・・まあ、そうですね。」
「食べるものにしたって、着るものにしたって、ただで手に入る訳はないですよね。
だったら、どのようにして?・・・・となりますよね。」
「今は、親から仕送りをしてもらってます。」
「ほう、仕送りねぇ。親御さんも大変だ。じゃあ、これからもそれを当てにして?」
「・・・・・・そんなつもりはありませんけれど・・・・。」
「じゃあ、どんなつもり?」
「そりゃあ、できればちゃんとした仕事を見つけて・・・・。」
「ほう、一応は、働く気持はお持ちなんだ。
じゃあ、具体的には、どういった仕事を?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「それも分ってないんですか?それでいて、ちゃんとした仕事に、と言ってもねぇ。」
「・・・・・」
哲司は、今すぐにでも車のドアを開けて飛び降りたくなる。
何で、そこまで言われなきゃいけないんだ!
(つづく)