第3章 やって来たパパ(その5)
「遠いんですか?」
哲司は少しだけ不安になる。
別に、奈菜の父親が怖いとか、どこかへ連れ去られるかもしれないなどとは思ってはいないが、地理不案内な場所に行くのは、どうしてもこっちの立場が弱くなるような気がしたのだ。
決して悪い事をしているのではないのだから、ちゃんと話を聞いて、言うだけのことは言っておこう。
そう思って車に乗り込んだつもりだったが、完全に受身になっている。
「ところでね、奈菜とは、どこで?」
「知り合ったのか?ってことですか?
だったら、アパートの近くのコンビにですよ。アルバイトをしていた店で。」
「君から声を掛けたの?」
「いいえ。」
「だったら、奈菜のほうからってこと?」
「う〜ん、・・・・そうでも無いんですけれど・・・。」
「それって、どういう?」
「う〜ん、たまたま釣銭の間違いがあって。」
「それは、奈菜が釣銭を間違えたってこと?」
「はい、そうですよ。」
「それで?」
「僕は一旦はあのアパートに戻ったんですが、その後、間違っていることに気がついたんです。」
「その時には気がつかなかった?」
「はい、・・・・・。」
「それ、本当?」
「どうしてですか?」
「普通、釣銭があれば、ちゃんとあるかどうか確認するものでしょう?」
「そう言われればそうなんですが・・・・。その時は、たまたまその確認をしなかったもので・・・。」
「そんなこと、よくやるの?」
「え?・・・・」
「だからね、釣銭を確認もしないで持ち帰るってことは、よくやるのかと。」
「・・・・・いえ、そうでもありませんけれど・・・。」
「だったら、どうして?」
哲司は、どことなく苛立ち始めていた。
こうした会話のやり取りに、腹が立ってきたのだ。
「これって、尋問されているみたい。」
(つづく)