第3章 やって来たパパ(その4)
「あっ、はい・・・・。」
哲司は、一瞬は「ええっ!一緒に飯を食うの?」とは思ったものの、それを断れる雰囲気ではない。
「店は任せてもらえますか?」
今度は、行き先まで決めるつもりのようだ。
「はい、・・・・構いませんけれど。」
哲司は全面降伏である。
「何か、お嫌いなものはありますか?」
「いえ、・・・・特には・・・・。」
「じゃあ、シートベルトだけ、お願いします。」
奈菜の父親は、そう言ってからすぐにエンジンをかけた。
車は、殆ど音も立てずに動き出した。
アパートの前は舗装されていなかったから、その部分を通るときだけ、タイヤが石を踏む音がする。
コンビニのある通りへの角まで来た。
これを左に行けばコンビニの前を通過することになる。
哲司は、ここから右へ行くのだろうな、とは考えていた。
どこへ向かっているのかは聞かされてはいなかったが、兎も角も、この角だけは絶対に右に曲がるだろうという確信があった。
例え、その目的地までの遠回りになろうともだ。
案の定である。
車は、ウインカーを点滅させて右に曲がった。
「お若いんですから、ステーキなんかどうかな、と思っているんですが・・・。」
その角を曲がり終わってから、奈菜の父親が言う。
「・・・・はい、お任せします。僕は何でも・・・。」
哲司は、そう言いながらも、これから連れて行かれそうな店の雰囲気を想像した。
それだけで、疲れてくる。
こうなると分っているんだったら、もう少しマシな服に着替えてくるんだった、と後悔する。
上は少し厚手のジャージで、下は薄汚れたジーンズだ。
おまけに靴もこれまた薄汚れたスニーカー。
もう何日も同じ服装でいる。
だが、もちろん、時既に遅しである。
「ちょっと足を伸ばしますから、ゆっくりとしてください。
それから、そこに、飲み物が入っていますから、お好きなものをどうぞ。」
奈菜の父親はそう言ってから、哲司の足元に置いてあったクーラーボックスを指差した。
車はどうやら高速道路に乗るようだ。
(つづく)