第3章 やって来たパパ(その3)
哲司は部屋の中へと上がって、財布と小銭入れをポケットに入れた。
いずれにも、そんな大金は入っていない。
全部で7千円ぐらいだろう。
それが哲司の現在の全財産である。
再び靴を履いてから、「さてと・・・」と考える。
このまますっと出て行くとすると、当然にだがあの車に乗ることになるだろう。
あの男、いや奈菜の父親は、車を走らせるつもりなのだろうか?
それとも、車は動かさないで、その中で話をしようと考えているのだろうか?
いずれにしても、奈菜の父親は、「てっちゃん」と呼ばれるこの俺を良いようには捕らえていない筈だ。
奈菜がどのように話したのかが分らないのだが、少なくとも「この俺が妊娠させた」と意識をしている可能性が高い。
あのコンビニの店長の話しはどうも分りづらいものだったが、その話から得た印象では少し偏屈な性格があるようにも思われた。
ともかく、会って見たいとはとても思わないタイプのような気がしていた。
「でも、もうそこまで来ているのだし、今更逃げられるものでもない。
なるようになるさ。」
哲司は、うだうだ考えることはやめにする。
「ただし、今日、店長やマスターから聞いた話は、どうやら黙っていたほうが良さそうだ。」
それだけを最後に意識して、部屋を出た。
部屋の鍵を閉めて、また階段を下りていく。
静かに下りたつもりだったが、もうすぐ階段を下りきる所まで行くと、車から奈菜の父親が出てきた。
ちゃんと見ていたのだろう。
自ら反対側の助手席のドアまで足を運んで、哲司のためにそのドアを開けてくれる。
何が何でも、この場所に座らせるつもりのようだ。
哲司も抵抗はしない。素直に案内されたとおり、その助手席に乗り込んだ。
高級車である。シートの座り心地も抜群にいい。
重厚な感じがする車内である。
奈菜の父親は、哲司側のドアを自らの手で閉めてから、また車の前部を回って運転席に座った。
決して慌てている様子も無く、ゆっくりと回ってきた。
「どうですか? お昼でもご一緒しながらお話をお聴きしたいのですが・・・。」
奈菜の父親は、シートベルトに手をやりながら、哲司に訊いて来る。
(つづく)