第2章 奈菜と出会ったコンビニ(その60)
「ですが、これだけは信じてやって欲しいんです。
あの子、奈菜は、打算や計算があって、ましてや貴方を騙そうなどと考えて近づくような子では決してありません。
あの子が言うように、本当に貴方のことが気になって仕方が無いだけなのだと思うのです。」
マスターは、身を乗り出すようにして、そう付け加える。
「まぁ、僕を騙したからといって、何に得があるものでもありませんからね。
取られて困るのは命ぐらいなもので。」
哲司は多少自虐的に言う。
確かに、奈菜が言っていることには合理的に納得できるものは殆どない。
好きだ嫌いだと言える間柄でもない。
なのに、このマスターは、奈菜と結婚をするのであれば本家の跡継ぎにしてもよいと言う。
だから、一度、一から付き合ってみてくれと言う。
こうした状況を、哲司はどのように考えたら良いのかがわからないでいる。
ただ、その一方で、こんな可愛い子と付き合えたらな、と思う今時の男の子の感情も排除は出来ない。
現時点では拒否する必要もないと思い始めている。
その日は、それで話が終わった。
マスターはそれでもまだ何か言い足らないような顔をしていたが、4人連れの客が入ってきたタイミングで、哲司が「じゃあ、今日はこれで」と終結を宣言する。
喫茶店を出た哲司は、少しだけ迷った。
その足をコンビニに向けるべきか、あるいは一旦はアパートに戻るかをである。
「・・・・・今日は、少し頭を冷やそう。」
迷った挙句、哲司はアパートへの道を急いだ。
(つづく)