第2章 奈菜と出会ったコンビニ(その59)
「・・・・・どうも、よく分りませんね。」
哲司は、現在の心境を吐露するように言う。
「どこが、でしょうか?」
マスターは、それを自分の説明不足だと捉えたようだ。
「いえ、そういうことではなくて、奈菜ちゃんの気持がです。
そりゃあ、僕に好意を持ってくれたのは男としては嬉しいです。
そんなことは、ここ数年まったくなかったですからね。
でも、自分で言うのも変ですが、顔やスタイルだってこの程度です。
決して“カッコいい男”だとも思っちゃいません。
着ている物だって、このとおり古いものばかりですし、第一、コンビニで買う物といったらカップ麺が殆どです。
それが主食なんです。
奈菜ちゃん、そうした僕の姿を知っている筈なのに・・・・・。
とても、信じられないんです。
お調べになったんでしょうからご存知なのだと思いますが、僕は今は無職です。
世間で言われるフリーターです。いや、既にニートかもしれません。
何がしたいのか、どうするのが自分にとって良いのか、それがまったく見えてないんです。
かと言って、このままで良いとも決して思っている訳ではありません。
何とかして、現在の状況から脱しないといけないとは思っているんです。
でも、その方法が分らないんです。
どこから、何から手を付けたらいいのか、それすらも分らないんです。
自分でも情けないと思います。
そんな中途半端な僕のどこに好意を持ってくれたのか、こんなことを言ったら怒られるのでしょうけれど、何か騙されているような気さえするんです。」
哲司は、そこまでを一気に話した。
それは、今までに、自分の気持としてはあったものの、決して誰にも言わなかったことである。
それが、このマスターの前で、今日、初めて会った初老の男の前では、素直に言えたことに自分自身がもっとも驚いている。
マスターは、真面目な顔でそれを聞いてくれた。
間で言葉を挟んだり、その先を止めるような行動も一切しなかった。
ただ、まっすぐに哲司を見て、ひとつひとつの話をゆっくりと頷いて聞いてくれた。
「巽さん、ですからね、これからゆっくりと奈菜と付き合ってみてくださいよ。
そうしていく中で、きっと、いま貴方がおっしゃったいろいろな疑問が解けてくるだろうと思うのです。
あの子の祖父である私にも、あの子が今何をどのように考えているのかは分らないのです。
日常的な会話は出来ていても、本音では話せていないのです。
そうなったのも、私にも責任はあるのですが・・・・・。」
マスターは、目頭を指で押さえるようにして、そう言った。
(つづく)