第2章 奈菜と出会ったコンビニ(その58)
「でも、この話、奈菜ちゃんは知っているんですか?」
哲司は、そこがまずは肝心だろうと思う。
「も、もちろんです。」
「で、どう言っているんですか?」
「どうって?」
「僕が“うん”と言えば、その本家の養子に行くと言ってるんですか?」
「はい、貴方とならば・・・と申しております。」
「う〜ん、そこんところが分らないんですよ。
どうして、僕ならば・・・なのですか?
要は、奈菜ちゃんがその本家の養子に行かれて、そこで結婚、つまり養子さんを貰われればいいことなのでしょう?
わざわざ、その業界のことをまったく知らない素人の僕を選ばれなくても。」
「そこが難しいのですな。
何しろ、奈菜が貴方でなければ、養子などには行かないと言うのですよ。」
「どうして?」
「それは、本人でないと分りません。訊いても教えてくれないのです。」
「でも・・・・・・・・。」
哲司は奈菜が言っていることが理解できない。
そこまで固執される覚えなど、ある筈も無いのだ。
「私も、巽さんが首を傾げられるのと同じなのですよ。
どうして?
その疑問はずっとあるんです。
どうして、まだお付合いもしたとは言えない貴方なのか。
ですから、繰り返しになりますが、“お茶でもどう?”ってところから始めていただけませんか、とお願いをしたのです。」
「じゃあ、仮に、僕が奈菜ちゃんとは結婚しないと言ったら?」
哲司は、奈菜がどう言おうと、自分にもこれからの人生を選択する権利はあると思っている。
だから、奈菜を好きになったとしても、造り酒屋を継がなくてはならないという条件が排除できないのであれば、結婚まではしないかもしれない。
そういうことも十分にあり得ることだと思う。
「それはそれで致し方のないことです。
今の時代、親がどう言おうと、結婚するしないは当人任せです。
いくら私や父親が“この人がいい”と言ったとしても、奈菜にその気持がなければ無理ですし、“その人はダメだ”と言ったとしても、奈菜が好きになってしまえば結婚するでしょう。
そのことは、私などより巽さんの方がよくお分かりでしょう?
ですから、巽さんが奈菜は妻には出来ない、と思われるのでしたら、それは奈菜の力不足ですから、残念ですが、致し方ありません。」
マスターは、哲司の質問に淡々と答える。
(つづく)