第1章 携帯で見つけたバイト(その10)
哲司はそういう状況を遠くから眺めていて、
「こりゃあ、おもろいことになったぞ!」
と思った。
ひとつは、香川主任という男がどう対応するのかである。
理由は分らないが、朝からカリカリ来ているようだ。
いつもそうなのか、それとも今日は何らかの理由があって機嫌が悪いのかは知ったことではない。
だが、兎も角も機嫌の悪いうえに、こうした予想外のことが起こったのだ。
どうするのかを見てみたい。
まるで舞台を見に来た観客のような気分なのだ。
「うひひひ・・・」の心境である。
それから、もうひとつは、哲司にはこの装置が何であるのかが分ったからである。
ここにいる誰もが「わからない」を繰り返している。
それで、どうするのかと騒いでいる。
だが、自分には、それがどういうものかが分ったのだ。
これって、滅多にあることではない。
日常、普通に生活をしていて、これだけは他人に負けない、と自覚するものはまったく無い哲司である。
だが、たまたまだが、その装置のことは分かったのだ。
いや、知っていたと言うのが正しいかもしれない。
哲司はその昔、工業高校の電気科に通っていた。
普通校も受験したが、落ちたのだ。
それで、少しレベルの低い工業高校に行った。
寮があって、親元から離れられるのが堪らなく嬉しかった。
そこを何とか既定の4年で卒業した。
1年生のときから出席日数も不足していたから、当然のように「補習」と「追試」を繰り返した学校生活だった。
それでも、学校側も留年だけはさせたくなかったようだ。
毎年2月ごろになると、いろいろと手を打ってきた。
散々に文句を言われたが、最終的には、何とか「卒業証書」だけはもらえた。
3月1日の卒業式には出ていない。
まだ、「補習」の真っ最中だったのだ。
そんな具合でも「卒業証書」という紙切れは絶大なる効果があるものである。
それがあって、地元の家電量販店に就職できた。
ただ、1年ほどしか持たなかったが。。。
その家電量販店の営業兼修理担当として働いていた時、同じ店の先輩に多少タチの悪い男がいた。
名前を大黒と言った。
その大黒とペアで仕事をするうちに、いろいろな「技術」や「知恵」を覚えた。
もちろん、学校では絶対に教えてくれない技術と知恵だった。
それが「非合法なもの」であることも教えてもらった。
そうした時期に、今、皆が「わからない」と騒いでいる装置のいくつかに出会っていた。
その装置が何を目的として設置されるものかも知っていたのだ。
(つづく)