第1章 携帯で見つけたバイト(その1)
哲司は、携帯電話でアルバイトの紹介サイトへアクセスする。
来週までに、3万円ほど欲しかった。
付き合っている奈菜に、スノボーの一泊旅行に誘われていた。
その費用を捻出したかったのだ。
哲司が使っている携帯サイトは便利だった。
今日3時間だけアルバイトがしたいというような要望でも、仕事の内容を選ばなければ何とか仕事にありつける。
もちろん、安定的な仕事ではない。
だが、必要なときにそれに見合った現金を確保するのには適していた。
明日から7日間の限定で、時給1500円のバイトがあった。
運送屋が行う引越しの現場作業だ。
1日あたり3時間の仕事だから、日当で4500円。
現地集合で、現地解散。交通費は支給しないとある。
7日とも場所は異なるが、いずれも同じ市内らしいから、交通費が出なくてもチャリ(自転車)で行くつもりだから、構わない。
それより、その日払いをしてくれるのかどうかが最大の関心事だ。
支払条件欄に「日払い可」とある。
取り敢えずは、これに決めた。
日当の額は多少不満だが、時給は高いのだから、やはり相当にキツイ作業なのだろう。
兎も角はやってみての話だ。
1日やってみてダメだったら、何とか理由をつけて断ればいいのだ。
そういう風に、安易に考える。
サイトに申し込みをする。
1時間を目処に返信がある筈だ。
結果オーライだった。
そして、翌日から、そのバイトは始まった。
前日の夜8時に運送屋からメールで指示がくる。
何時に、どこへ来いと。
指定の時間に指定の場所に行くと、その運送屋の制服を着た男達が屯していた。
「あのう、アルバイトの巽ですが・・・。」
と声を掛けると、「現場責任者」という腕章をつけた男のところへ連れて行かれる。
「君が、巽君?」
「あっ、はい。」
「要は引越しの手伝いだ。分るだろう?」
「はい、何とか。」
「じゃあ、これを着て。」
そう言って、皆と同じ制服の上着と手袋を貸してくれる。
その傍には、哲司と同じように、見るからにアルバイトだと分る雰囲気の男が3人もいた。
(つづく)