1日目
そうしておれは青藤の家に入ることに成功したのであった。
だましたつもりはないのだが、流れで少しだまして家にはいったことに少し反省はした。
青藤の家は普通の一軒家としては大きい方の家なのだろう。
資料と実際に外の外観から見ても大きかったがやはり中を見ると改めて広いということが認識できるのだ。
家は西洋式というよりは和式なのだろう。広々とした和室が並んでいた。
その中央とも思える、大広間のところでおれは青藤に待っててといわれた。
どうやらお茶やら菓子をもってくるらしい。
最初、おれは断ったが向こうが余りにも押してくるので仕方なくという形で召し上がる形となった。
しかしこの大広間もとにかく広い。高の原高校の体育館並みはある。うちの高校は体育館としては小さい方だがただの部屋としては大きすぎる。
それに気になったのはこんな広い部屋なのに人の気配がないことだ。
てっきり親でも住んでいるのかと思っていたがどうやら違うらしい。
「お待たせ!」
青藤がなにやらお盆に色々な物を乗せて持ってきた。
見たところ、2人分のお茶におつまみのようなものやらお菓子やらでお盆が一杯になっていた。
おれたちはあらかじめ置いてあったテーブルに対になるように座った。
青藤はテーブルにお盆に入れてあった物を広げ出した。
「まぁつまらないものだけど食べて食べて」
おれはお言葉に甘えて、お菓子などをつまんだ。やはり定番の味だ。おいしい。
しばらく、置いてあったお菓子などを食べていた。
「ぼく..ヒーロー大好きなんだ!ヒーローってかっこいいじゃないか。悪を倒し正義を守る。あんな生き方ぼくもしてみたい..って高校生がする話じゃないよね」
「でも..憧れてる..なってみたい」
そして、一通り話した後正義を憧れる少年の目から少し諦めた目に変わった。
「でも..慣れないことももうわかっている。だってぼくは弱いんだから..」
「いくら正義の心だけあっても悪を倒さなきゃヒーローには慣れない。そんなこともぼくは気づけなかったんだ。そしていつか正義の心も消えて行きそうな気がしてね..」
「それに耐えられない。ぼくはだめなんだ。いじめられていく内に心まで弱くなっていくんだ..」
なにか..言わなきゃ。青藤の心は完全に折れてしまっているのだ。だが..おれはなにも言わなかった..いえなかったんだ..
胸が痛い。気持ちが痛いほどわかるのだ。
だっておれもいじめられてたんだ..
世界の破滅を願うほど心は弱くなっていたんだから..
中途半端なことは言えなかった。だって自分でもわかっているから。
がんばって!とかいい事あるよ!などと無責任なことを言われたってなにも意味がないことは...
「ははっ..なんか暗いムードになっちゃったね。ごめんごめん!そうだ。ヒーロー物のビデオ一杯あるんだ。一緒に見よう!」
その、暗い雰囲気を無理やり打ち消すように青藤は言って席をたった。
ヒーロー物のビデオをとってくる気だ。
だが、おれはそんなことを耳にはいってないほど困惑してしまっていた。
こんなおれに似た人を殺すなんて...
できるのか..3日で..
青藤は持ってきたビデオをテレビのBlu-rayディスクにいれて一緒に見た。
正直内容は全く頭に入っていない。
だが、適当な相槌はできたはずだ。
おれたちはそのビデオを日が暗くなるまで見て、一旦家に帰ることにした。
「また、来てくださいね!」
青藤は笑顔で送り出してくれた。
「は..はい!」
言われなくても行かなくてはならない。
だが..おれの中の結論はいっこうにでなかった。