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男装少女の幕末物語  作者: 檸檬
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第一章

ある剣道の試合会場で、一際目立っている人が試合をしていた。両者は睨みあっていて、一歩も引けない状態だった。その時、目立っている人が一歩踏み出したときには試合がもう終わっていた。

その人の気迫に相手は負けてしまい、一歩も動けずにいたのだ。竹刀の音が鳴らずに終了した。


「審判......」


そう呟いて、ハッとした審判は自分の仕事をした。そして、こう言った。


「し、勝者......日村 夏!!」


審判がその人の名前を言ったとき、一気に歓声が会場に響き渡った。

夏と呼ばれたひとは、お面をとり、癖毛についている汗を払うようにブンブンと、首を横に振った。

その行為がかっこよかったのか、会場にいた観客の女子たちが、一斉に黄色い声をあげた。


「「きゃぁぁああ!!日村様よぉぉぉお!!」」


夏はその歓声にこたえるように、彼女達に手を振った。彼女達は自分個人にあてられたものだと思い込む。夏はその行為が面白く、滑稽に見えたのか微笑した。

夏がベンチに帰ったそのとき、一人の少女が夏のところに向かっていった。


「お疲れ。夏」

「ありがと、美樹」


美樹と呼ばれた女の子は、夏と並んでいると美男美女のカップルに見えるのが普通と思えるほど可愛かった。本名は【坪倉美樹】。美樹の髪は漆黒でポニーテールにしているから、余計綺麗に見える。目はパッチリしていて、フチありの青い眼鏡を掛けている。笑うととても可愛い女の子だった。


「また優勝したんだねwおめでとう!」

「ありがと。でも、これだけじゃまだ足りない…母さんに認めてもらうにはもっと強くならなくちゃ……」

「お母さんのために頑張ってるけど…お母さんはもう……」

「でも、私の頑張りを見せなきゃね」


夏のお母さんはもうこの世にはいない。三年前、試合の観戦に来るときに信号を無視したトラックに轢かれてしまった。ここに来れなかったお母さんのことを思いながら、毎回ベンチにお母さんの遺影を飾り、試合をしている。そのおかげか、毎回優勝している。それ以外にも夏が強いわけはいくつもある。


小さい頃から始めていた合気道が役に立ち、重心を整えるために始めた空手や、その他もろもろ。

それらを長く続けたから、17年間強くいれた。これらを勧めてくれたのは全てお母さんだった。


「まぁ、勝てたから良かったね。表彰式が終わったら何か予定ある?」

「ごめんね。欲しかった新撰組の本が売ってたんだ!それを買いにいくから、明日にしよう?」

「うわぁ…好きだねやっぱり。そんなに好きならタイムスリップしちゃえばぁー?」


新撰組は夏にとって最高の楽しみといっていいだろう。お父さんが大好きだったからその影響といえるものだった。お父さんが単身赴任で東京に行ったけど、時々新撰組がかかわった地域に行って写真を送ってくれるから、それを楽しみにしていることもある。ほとんどの知識は、お父さんからだが、本から取り入れた知識のほうが多いかもしれない。


「タイムスリップしたいなら今頃やってるでしょ……。できるものなら、長州のほうに送り込んでくれないかなぁー」

「どうして?」

「幕府と敵対しているけど、目指す場所は一緒じゃん?やり方が違うだけでも、尊敬してるもん」

「なるほど」


美樹は関心がなさそうに返事をした。いつものことだが、夏はちょっとだけ傷ついた。


「じゃぁ、表彰式行ってくるー!」

「いってらっしゃーい」


美樹に言って夏はステージ前に向かった。


――――

―――

――


表彰式が終わり、夏が会場からでて数分経った。夏の周りには田んぼ道が続いている。会場からでて少し歩いたときにこういう道が広がっている。


「また勝っちゃったな…相手の人に迷惑かかったかな。いや、相手に勝たないと母さんを安心させることができない」


【母さんのため】という言葉に縛られているだけかもしれないと、何度思ったか。だが、勝たないとだめ、という気持ちが多いため、勝ってしまう。


「はぁーぁ」


ため息をついたとき、道の向こう側に真っ黒い本がポツリと置かれていた。夕焼けの中だが、目立っているものでもない。他の人には見えていないのか、通り越していく人がほとんどだった。


「何これ…中身真っ白じゃん」


中身を見ると、文字も何にも書かれていない状態だった。そのときだった。いきなり自分の周りだけ風が吹き始め、外の状態が分からなくなるほどになった。


「うわぁぁぁ!!!」


気づいたとこにはもう、その場にいたはずだった夏はそこにはいなく、枯葉だけが舞っているだけだった……。

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