あの素晴らしい日々をもう一度 3
一人暮らしの家もまさに僕の記憶のとおりだった。
両親は長期出張中。僕は絶賛男の一人暮らしを満喫中だった。
「ふむ……典型的な男の一人暮らしの部屋じゃな。汚らしいところじゃ」
リビングまでやってきて神様の不機嫌そうな声が頭に響いた。
「……うるさいな」
僕はそんな神様に向かって面倒臭そうに返事をする。
「なんなら、ワシが片付けてやろうか?」
「はぁ? どうやって? 姿も見えないのに?」
「いや、ここにおるが」
と、ふいに背中をトントンと叩かれる。
いつのまにかそこには白髪の着物姿の少女が立っていた。
思わず口を開けたまま呆然としてしまう僕。
「え……」
「どれ、ワシが片付けてやるから、お主は他の部屋に行っておれ」
結局神様に言われるままに、僕はリビングを出て自分の部屋で待機した。
自分の部屋もそのままだった。間違いなく、記憶通りの僕の部屋。
カレンダーは一ヶ月前。そして、机の上の電波時計の日付も一ヶ月前だった。
「マジかよ……」
とりあえず、ベッドに横になる。
じゃあ、何か? このままいくと、後一ヶ月後には、僕は夢に刺し殺されるわけか?
なんだか冗談にしか思えない話だ。
そのまま天井を見つめる。疲れた。
そうだ。疲れている。もうずっと僕はこの怒涛の流れに身を任せてきた。
死んだはずなのに生き返り、挙句、神様とやらが、リビングを掃除している……空想上の世界の話としか思えない。
僕は目を瞑った。
そうだ。寝よう。寝れば全て元に戻る。
いや、元に戻ってもらわなければ困る。
そう思って僕は眠りについた。
「……おい、起きるんじゃ」
と思って、目を瞑って五分くらいしかしないうちに、神様の声が聞こえてきた。僕は目を開ける。
「……なんだよ。今、寝ようと思っていたのに」
「部屋の片付けは済んだぞ。来るんじゃ」
再び言われたままに、僕は神様の後を着いていった。
リビングは確かに片付いていた。
まるで嵐が去った後の状態だった部屋が、綺麗に整理されている。
「ほ、ほぇー……」
「どうじゃ? すごいじゃろ? ま、ワシは神様じゃからな。これくらい出来て当然じゃ」
思わず神様をマジマジと見てしまう。
いや、別に神様だから掃除が上手というのは理由にならない気がするが……それでも惚れ惚れするほどに部屋は整理されていたのだった。
「さて、次は……おー、そうじゃ、お主に飯を作ってやろう。ワシが作る飯はうまいぞ?」
「え、い、いいよ! 飯は!」
「なんでじゃ? 遠慮することはないじゃろう? せっかく作ってやると言っておるのに」
「そ、それは……」
その時だった。
ピンポーンと家の外でチャイムが鳴る。
「あ」
僕は思わず声を漏らす。
「客人か?」
神様が首をかしげた。
不味い。
この状況は不味い。もし、こんな状況を見られたら……
僕は、この場で殺される。
「い、いいから! 神様、アンタ、姿を表せたんだから、隠すこともできるんだよな?」
「もちろんじゃ。すぐに出来る」
「だったら、隠れてて!」
僕はそれだけ言い残すと玄関へと走って言った。
そして、ドアの鍵を開ける。