あの素晴らしい日々をもう一度 2
家への道は僕の記憶のとおりだった。
見慣れた風景。間違いなく、僕が住んでいた街だった。
「どうじゃ? お主の住んでいた街じゃろ?」
「……まぁ」
「一度死んで生き返ったものは神と同義じゃ。お主はある意味ワシと同じ立ち位置の存在とも言えるのかもしれんの」
なぜか僕に聞こえてくる声は嬉しそうだった。
僕としては未だに自分が生き返ったという事実も信じられないし、神様と話しているという事実も信じられない。
そもそも、夢が僕を刺し殺したという事実さえ認識しきっていないのだ。
なのに、なんだかどんどん話が僕を取り残してものすごい勢いで進んでいる気がする。
僕は大きく溜息をついた。
「あれ? タカ君?」
心臓が飛び跳ねる。
聞きなれた声。優しそうで穏やかそうな響。
僕はゆっくりと振り向いた。
「あ。やっぱりタカ君だ」
嬉しそうに微笑むかける少女。
紛れもなく、森崎夢。僕の幼馴染だった。
「あ、ああ……ゆ、夢」
「どうしたの? なんだか、顔色よくないけど……」
心配そうに夢は近付いてきた。
「あ、ああ……ま、まぁね……ね、寝不足かなぁ?」
「ダメだよ。ちゃんと寝なくちゃ。もう、タカ君はいくつになっても世話が掛かるんだから」
もちろん、お前に殺されたから顔色が悪いんだ、とは死んでもいえない。
「え、えっと……ゆ、夢はどうしてここにいるの?」
「え? 私はちょっとお買い物があるから出てきただけだけど……タカ君こそ、どうしてまだ制服なの?」
「え? あ、ああ……ま、まぁ……」
夢に言われてようやく自分が未だに制服だったことに気付いた。
そういえば、死ぬ直前も制服だった。それが原因かな?
しかし、刺されて血が吹き出たはずの胸元には包丁も刺さっていなければ血の跡さえも残っていなかった。
これも神の御業ってことなんだろうか。
「と、とにかく、今日は帰るよ。遅くなっちゃったし」
「そ、そっか……あ! た、タカ君!」
と、僕が夢に背を向け歩き出そうとした時だった。
夢が僕の方を見ている。
「ど、どうしたの?」
「あ……う、ううん。なんでもないよ。なんでも……」
「そ、そうか……じゃ、じゃあな。夢」
「う、うん」
そのまま僕と夢は別れた。
しばらく自宅への道を急ぐ。
夢……変わらなかったな。いつも通りだった。
あの土砂降りの中、僕を刺し殺しに来た夢とは大違いだ。何があそこまで夢を変えてしまったのか……
「そりゃ、お主のせいじゃろう」
「へっ!?」
僕はいきなり話しかけられて驚いてしまった。
「何が森崎夢を凶行へ走らせたか、どう考えてもお主のせいに決まっておるじゃないか」
「な、なんだよ……僕の考えていることまでわかるのかよ」
「神様じゃからな。お主の考えていることなどお見通しじゃ」
神通力、って奴か。これじゃ、変なことは考えられないな……
「むっ。お主、今、ワシのエッチな下着姿を想像したじゃろ?」
「は、はぁ!? し、してないよ!」
「そうか……残念じゃな」
……本当に神様なのかどうかやっぱり怪しい。
とりあえず家に戻ろう。考えるのはそれからだ。
僕は自宅への道を急いだ。
夕暮れのオレンジ色の光がほんのりと僕の背中を照らしていた。