やり直しの世界 7
「……というわけで、僕と翼は付き合っています」
翌日、教室で他の幼馴染三人を集めて僕はことの顛末を話した。
三人それぞれ、驚きの表情で僕を見ている。
翼は恥ずかしそうに僕の隣で頬を赤くしていた。
「え……マジなの?」
一番最初に口を開いたのは杏だった。
「ああ。そうだよ」
「隆哉……アンタ、趣味悪かったのね」
その言葉に翼は杏を睨むが、杏はなぜか余裕の表情で翼を見る。
「あーら? 彼氏の前で暴力を奮うのかしら? ちょっと隆哉、なんとか言いなさいよ」
「あ、ああ……翼。ダメだよ」
「……仕方ねぇな」
不機嫌そうにしながらも、翼はなんとか握った手のひらを解いた。
「で、でも……タカ君、ホントに、翼ちゃんと付き合うの? ちょ、ちょっと急すぎるんじゃない?」
そう言って来たのは夢だった。
明らかに動揺している。
本当なら今日、夢は僕に告白してくるつもりだったのだからそれはそうか。
僕は夢の方を見る。
「ああ。本当だ。ダメかな?」
「だ、ダメじゃないけど……」
夢は悲しそうだ。
おそらくもう僕が自分の手の届かないところに言ってしまったと思っているのだろう。
もちろん、それは想定済みだ。
だからこそ、僕は言葉を用意してきたのだ。
夢を……いや、残り三人の幼馴染を安心させる言葉を。
「あはは。大丈夫だよ。付き合てるって言っても、それはあくまで彼氏彼女ですよ、ってだけさ。別に今までとおり、僕達の関係に変わりはない」
「え? で、でも……ま、不味いよね? 今までとおり私がお料理作りにタカ君の御家に行ったりしたら……」
「そんなことはないよ。ね? 翼」
翼は相変らず不機嫌そうな顔で僕を見ていた。だが、フッと夢に優しく微笑む。
「ああ。問題ないさ。別に、俺はコイツとそういうことをしたいわけじゃないんだ。俺はただ、コイツの彼女になった、ってことだけで充分さ」
「はぁ? 何それ。じゃあ、何? もし、仮に、私がよ? 隆哉と一緒に買い物に出かけたりしても、アンタ、怒らないの?」
「別に。なんで怒るんだ?」
杏は呆れたように翼を見る。
まぁ、杏としてはあり得ないと言いたげなのは、既に経験からしてわかることである。
「うふふ。隆哉君と翼らしいですね」
と、嬉しそうな笑顔で澪が笑う。
「じゃあ、私がもし、隆哉君をお茶に誘っても、翼は怒らないんですね?」
「ああ。別にいいさ。なんなら、お前ら、コイツと今この場でキスしてもいいぞ」
さすがにこの発言には三人とも目を丸くして驚いた。
もちろん、僕も。
「あ、あはは……翼ちゃん、そ、それは不味いんじゃ……」
夢が少し引き気味でそう言った。
「何、構わないさ。お前らなら問題ないね。お前らなら、な」
翼は平気な顔でそう言った。
いや、しかし、これで、いい。これがベストだ。
幼馴染三人……特に夢と杏に、僕が翼と付き合っていることを知らせる。
だが、それはあくまで僕と翼が付き合っているというん事実だけだ。
関係は今まで通り。
夢はいつも通り僕の家に夕飯を作りにいいし、一緒に朝登校していい。
杏にしても、僕と遊びたければいつでも遊びに誘っていいようにした。
そうすれば、夢や杏が爆発することはない。
僕を殺すようなことはないだろう。
それに、どんなに僕が好きでも僕には翼という彼女がいる。
あくまで夢や杏は幼馴染という立場からは進めない。
しかも、僕はこれで翼と結ばれた。
これで死の運命からも抜け出せる。
まさに完璧な作戦だった。
われながら惚れ惚れするくらいに。
「……あ、悪い。俺、トイレ」
そういって翼が教室の外へと向かっていく。
「じゃあ、そういうことだから。あ、僕もトイレ行ってこよう」
そういって僕もその後を追って言った。
これで三人への説明は終わった。もう何も心配する必要はない。
僕は半ばスキップしながら翼の後に付いていった。




