僕の死んだ日 3
「え……え?」
夢は酷く動揺していた。
「そ、その……ごめん!」
しかし、僕は構わずに謝り続ける。
「ちょ、ちょっと……なんで、謝っているの? タカ君? 意味がわからないよ?」
「あ……そ、その……とにかく、ごめん!」
自分でも、何を謝っているのかわからなかった。
でも、とにかく謝った。
僕が悪いのだ。
僕が悪いから夢はこうやってずっと家に引きこもってしまっていたのだ。
だから、とにかく謝る。それしかできなかった。
僕が頭を下げたままの状態でどれくらい経っただろう。
沈黙が支配する夢の家のリビングで、時計の針の音だけがカチカチと鳴り響いていた。
「ぷっ」
「……へ?」
「ふっ……ふふふ……あははははは!」
僕は思わず驚いた顔を上げる。
目の前の夢は、可笑しくて仕方ないという風に大笑いしていた。
「ゆ、夢?」
「はぁ……た、タカ君……ふふっ……やっぱり、タカ君はタカ君だね」
そういって嬉しそうに目を細める夢。
僕にはなにがなんだかわからなかったが、僕もそれに応ずるように曖昧に微笑んだ。
「ふふ……あ~! なにやってたんだろうな、私。全く……」
夢はうーんと大きく伸びをする。
まるで憑き物が落ちたように夢の顔は朗らかだった。
「うん! よし! 大丈夫だよ、タカ君。もう心配しないで」
「え? そ、そうなの?」
「そうだよ。明日からちゃんと学校も行くから」
「そ、そう……」
意味がわからなかった。
でも、酷く安心した。夢が学校に行くと元気に言ってくれた。
なんだかそれだけで救われた気がしたのである。
「ふぅ……さぁ、もうタカ君も学校に戻って」
「え? い、いいの?」
「いいの、じゃないよ! タカ君、授業サボっているんでしょ! 早く帰りなさい!」
……いつもの夢だった。
僕はなんだか懐かしい場所にまた帰ってきたような気がした。
「じゃ、じゃあ……戻るよ」
「うん! だから、また、明日、ね?」
結局、僕は玄関まで夢に見送られて夢の家を出た。
玄関で僕を見送った夢の笑顔はもう既に僕が知っている夢の笑顔だった。




