バッドエンド 4
「で、でも……そのボロ……じゃなくて、小石川神社の神様とやらが、どうして僕のところに?」
すると神様は相変らず不機嫌そうな顔で僕を見た。
「……ふんっ。お主は、五歳の時より、一ヶ月に1回、欠かさずワシの下を訪れた。これはそのほんの褒美、というわけじゃ」
「え……あ、ああ」
言われて見ればそうだった。
僕は五歳の時に、みんなとあのボロ神社を見つけてから、なぜだか知らないが毎日あの神社を訪れた。
なんでか知らないけど、それが風習だったのだ。
きらびやかで整備された神林神社よりも、ボロボロの神社の方がなんだか、奇妙なご利益がありそうだ。
そう思ったのが主な理由だと思う。
それにしても、あの神社が恋愛成就の神社だったとは……
「さて、それではさっそく、お主に褒美を与えようかの」
「は? え、ちょ、ちょっと待って。そ、そうだ。そもそも、なんで僕、まだ意識があるの? 僕、死んだんだよね? だ、大体、なんで神様が見えるわけ? っていうか、君、ホントに神様なの?」
「ちょ、ちょっと待て! 一気に質問するでない! 混乱するじゃろう」
「あ、ああ、ごめんなさい……」
「ふむ。では一つ一つ説明するぞ。まず、なぜお主にまだ意識があるのか。それは一重にこのワシがお主の魂をこの世に繋ぎとめているからじゃ」
「え? そ、そんなことできるの?」
「当たり前じゃ、ワシは神様じゃからな」
僕は少し疑わしげな目で彼女を見る。
「な、なんじゃ、その目は」
「え、だ、だって……」
「い、今この場所でワシが神であることの証明を行うのはちょっと難しい。というか、お主、死んだことは覚えておるのじゃろう? だったら、死後の世界で出会うのは神か、悪魔かそのどちらかに決まっているじゃろう」
「そ、それはそうだけど……」
「それとも何か? まだ、自分が、森崎夢に殺されたという事実を受け入れられないわけかの?」
少女は僕に尋ねてきた。
夢……そうだ。夢に殺されたんだ。幼馴染である森崎夢に。
いつもニコニコしていて虫も殺せないような感じの女の子。それが僕の知る森崎夢だった。
そんな夢が、僕を呼び出し、包丁で刺し殺した。今考えても、とても現実に起こった出来事とは思えなかった。
僕は今更になって落ち込んだ気持ちになってきたのであった。
「全く……どうして、夢に殺されたか、お主、わかっとらんのじゃろう?」
「え? い、いや……それは……」
「簡単なことじゃ、お主が夢と付き合う、と言った癖に、いつまでも他の幼馴染の女の子と仲良くしているから、夢もいい加減我慢の限界だったんじゃ。結果として、夢はお主を殺してしまった。お主と他の子が仲良くしているのが、許せなかったんじゃろうなぁ」
「ちょ、ちょっと待ってよ! そ、そうはいっても……みんな幼馴染だよ? 確かに、僕は夢の告白も受けたし、僕も夢と彼氏彼女の関係になることも了承したけど……だ、だからって、他の幼馴染のみんなと仲良くしちゃいけないなんてこと……」
と、そこまで言って神様が僕のことをジト目で見ているのに気付いた。
「な、なんだよ……」
「お主、本気でそう言っておるのか?」
「あ、ああ。そうだよ?」
「……はぁ。殺されても仕方ないの」
「な、なんでだよ!?」
「あのなぁ……お主、夢だけが幼馴染の中でお主のことを好きだったと思うのか?」
「……え?」
神様は呆れ顔で僕を見た。
夢だけが好きだったと思うのか、って?
その言い方じゃ、まるで他の幼馴染も僕のことを好きだった、と言いたいみたいじゃないか。
……そんなことはあり得ない。
いや。まさか。ないない。
僕は必死に頭の中で否定を繰り返した。
しかし、神様は相変らずジト目で責めるように僕を見ている。
「……マジで?」
「……確認してみればいいじゃろう」
「確認? どうやって?」
「そこでわしがお主に褒美をやろう、という話に戻ってくるわけじゃ」
「……は?」
神様はニンマリと笑った。