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死の足音が聞こえる 9

 そのままぎゅっと僕を抱きしめる杏。


 柔らかい感触が薄いパジャマを通して、直接伝わってくる。


「ちょ、ちょっと……杏……」


「……嬉しい。私、心配だったの……隆哉、もしかしたら、私のこと、嫌いなんじゃないか、って」


「あ、あはは……心配性だなぁ、杏は」


 すると杏は本当に目の端に涙を貯めてを上目遣いに見た。


「……えへへ。じゃあ、もう大丈夫なんだね」


「……うん。そう。心配すること、ないんだよ。あ、でも、もうちょっと、僕のこと信用してくれてもいいかな……」


「え? 何?」


「あ、ああ。その……別に、大丈夫だよ。他の女の子と喋っても、僕は絶対杏のことが一番に好きだからさ」


 すると杏は顔を赤くして僕を見る。そして、そのまま僕の胸に顔を埋めてきた。


 高鳴る心臓の音が直接聞こえてしまいそうで不安だった。


「……うん。信用はしてるよ。でも……私は、隆哉のことが一番好き。隆哉も私のことが一番好き。ずっと、ずっとそう。そうでなきゃダメ。誰にも渡さない。誰にも……」


 すると杏の僕を抱きしめる力が強くなる。


 苦しいくらいに強く。


「あ……杏?」


「え? あ、ああ。ごめんね。あ、あはは……」


 杏は照れ隠しに可愛らしく笑った。


 しかし、僕はその時明確に感じた。


 今の杏はなんだか……


「そ、それじゃあ、寝ようか」


「え? あ、ああ」


 ……いや、僕の気のせいだろう。


 あまり深く考えすぎない方がいいだろう。


 頭の中のモヤモヤを打ち消し、僕達は寝ることにした。


「……ねぇ、隆哉」


 隣り合って横になった時、杏が話しかけてきた。


「どうしたの?」


 杏は少し躊躇った後、頬を紅く染めて口を開いた。


「ずっといっしょだよ……ね?」


 そう言われて思わず僕も戸惑ってしまう。


「え……あ、ああ。そうだよ。大丈夫だって」


 杏はニッコリと笑った。


 そうだ。ずっと、一緒だ。


 きっと。


 明日は僕が死んだ日。夢に殺された日。


 きっと、明日だって、変わらない。


 僕はそう信じて眠りについた。

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