死の足音が聞こえる 8
すると、その直後のことだった。
コンコン、とドアをノックする音が聞こえる。
「あ、杏? どうしたの?」
「……隆哉? 入っていいかな?」
「あ、うん。どうぞ」
僕がそう言うと、扉を開けてパジャマ姿の杏が入ってきた。
本当ならよくないんだろうが、もう随分とこの光景を見ることに慣れてしまった。
といっても、やっぱり恥ずかしかったわけだが。
そのまま杏子は僕の隣に腰を降ろす。
僕はそれとなく杏のパジャマ姿に目をやる。
パジャマの時はツインテールではないので髪を下ろしている杏はいつもより大人びて見えた。
「……どうしたの?」
「え? あ、ああ……なんでもない」
「なんか……隆哉、最近疲れていない?」
「え? そ、そうかな?」
「うん。だって、そう見えるよ」
杏は心配そう僕の顔を覗き込む。
なんで疲れているって……そりゃあ、終始杏の目が光っているからに決まっているじゃないか。
学校では誰とも話すこともできず、少しでもそんなことをしようとすれば杏がどこからともなくやってくる……
こんなあまりにも異常な状況下に置かれれば誰だって元気がなくなるだろ……
もう……いい加減にしてくれ!
……と、言いたいのは山々だったが、残念ながら、僕にはそれを言う勇気がなかった。
何も言えずに僕は杏を見ていた。
すると、杏は悲しそうに俯いた。
「……私の……せいかな?」
「え? な、なんだって?」
「私のせいで隆哉……元気がないんじゃないの?」
少し瞳を潤ませながら杏はそう訊いてくる。
「そ、そんなことないよ! な、なんで杏のせいなんだよ」
咄嗟に僕は否定する。しかし、杏は首を横に振った。
「ううん。いいの。だって……わかってるよ。ちょっと……隆哉に甘えすぎかなぁ、って」
「え? あ、甘えすぎ?」
「うん……ホントは隆哉、私のこと、嫌なんじゃない?」
「え……」
「アンタは……人がいいから……ホントは心の中で思っているんじゃない? 私のことなんてホントは嫌いで――」
「そ、そんなわけないだろ!」
と、つい僕は大きな声を出してしまった。
杏はビックリして目を大きくしている。
「あ……そ、そんな……杏が嫌いなはずないだろう?」
「た、隆哉……」
「た、確かに、携帯を取り上げられちゃったこととかは……ちょ、ちょっとやりすぎかなぁとか思うけどさ……」
「だ、だって! 私は隆哉のことを思って……!」
「わ、わかっているよ。だ、だから、ね? そんな風に僕のことを思ってくれている杏のことを、僕が嫌いになるわけ、ないだろう?」
少し恥ずかしかった。
目の前の杏もキョトンとして僕を見ている。
さすがに、あまりにもキザ過ぎるセリフだったろうか?
しかし、次の瞬間には杏は顔を輝かせて僕に飛びついてきた。
「隆哉!」
僕は反射的に飛びついて来た杏を受け止めてしまった。




