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死の足音が聞こえる 2

「ほら、準備できた?」


「あ、ああ」


「じゃあ……行きましょ」


 そういって玄関のドアを開ける。


 いい天気だった。


 晴れ渡る快晴。雲ひとつない。まるで僕の心の中のようだ。


 思いっきり伸びをする。


「ふふ。昨日は二人でベッドで寝ていたから、よく眠れなかった?」


「え……そ、そういうわけじゃないけど……」


「可愛いかったなぁ……隆哉の寝顔」


 うっとりとした顔でそういう杏。

 

 寝顔も見られちゃったのか。


 ま、まぁ、一緒に寝たんだから、そういうことになるのは当たり前だよな……


 と、僕は道の向こうを見る。


 夢の家の方角だ。いつもなら夢がやってきて僕に挨拶する方角。


 昨日は酷いことしちゃったからなぁ……もし、できるのなら、謝りたいんだけど。


「ねぇ」


 と、その時だった。


「ん? 何? 杏」


「隆哉。何見ているの?」


「え? あ、ああ……べ、別に何も見てないよ」


 もちろん、杏には夢のことが気になんていえない。


 というか、さすがの僕でもそれくらいわかる。


 そういった常識は持ち合わせている。そんなはずだった。


「へぇ……私に嘘つくんだ」


 と、杏が僕を見る。


 一瞬、違和感があった。


 その表情はあくまで優しげなのだが……なんだろうか。


 そう。怖い。


 怖いのだ。


「え? う、嘘?」


「うん。だって、今、夢の家の方角見てたじゃん。気になってたんでしょ? 夢がどうしているか」


「そ、そんなことないよ。ただ、ぼぉっとしていただけ――」


「嘘」


 杏ははっきりと聞こえるようにいった。


 僕は固まってしまう。


「見てた。夢のことが気になるんでしょ? どうして? ねぇ、どうして気にするの? 大丈夫だよ。隆哉はそんなこと気にしなくていいの。だって、隆哉の彼女は私でしょ? 隆哉にとって必要な女の子は私だけだし、それ以外は何もいらないはずだよね? ねぇ? そうだよね?」


「あ、え、えっと……」


「応えてよ。隆哉」


 目が笑っていない。


 というか、真っ直ぐに見据えたその瞳はまるで暗い闇のように僕を飲み込もうとしているようだった。


 自然と身体が震えるのがわかった。


「あ、ああ……そ、そうだ」


 まるで操り人形のように僕は間抜けにそう応えた。


 すると瞬時に笑顔になる杏。


「わかればいいんのよ。じゃあ、行きましょう」


 そういって僕の腕に飛びついてくる杏。


 近寄りすぎて歩きにくいくらいに身体を密着させてくる。


「あ、杏……う、動きにくい……」


「えぇ~? ダメなの?」


 杏は上目遣いでそういってくる。


「あ、ああ……ま、まぁ、いいや」


 僕は仕方なくそれに従う。杏は満足そうだった。


 それにしても……さっきの杏……


 あの目。


 身体の芯から寒くなるような目つき。


 まるでそのまま視線に刺し殺されてしまうかのような……

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