決断の刻 10
「う、うぅ……」
「馬鹿な奴じゃの。あんなことしていたらのぼせるに決まっておるじゃろう」
ベッドの上で伸びていると神様の叱責の声が聞こえてきた。
「あ、あはは……仰るとおりで」
「何デレデレしておるのじゃ。お主、わかっておるのか? お主の状況は益々最悪。もはや逃げられない所まで来ておるのじゃぞ?」
「はぁ? 何言っているの? こんなに幸せなのに、最悪のわけないじゃないか……むふふ」
自然と幸せそうな笑い声が漏れてしまう。
そうだ。どうせ神様は嫉妬しているのだ。
自分が神様なのに、嫉妬なんて……情けないなぁ。
「だ、誰が嫉妬などしておるかっ! 馬鹿者!」
神様の声が頭に響いた。思わず僕は耳をふさいでしまう。
「な、何? なんでそんな大きな声出すの?」
「知らん! 知らんからな! 大変ことになっても!」
そのまま神様の声は聞こえなくなった。
大変なことって……なるわけないじゃないか。
また自然と顔が緩んでしまう。
明日からは僕と杏は彼氏彼女の関係なのだ。
きっともっとすばらしいことが――
と、その時、コンコンとドアを叩く音。
「はい? 杏?」
「入っていいかな? 隆哉」
「あ、ああ。別にいいけど」
そういうとパジャマ姿の杏がドアを開けて入ってきた。
パジャマ姿も可愛らしい……って、なんで入ってきているんだ!?
「あ……ど、どうしたの?」
動揺することさえできないまま僕は杏に尋ねる。
「え、えっと……もう寝るの?」
「う、うん……そのつもりだけど」
そういうと杏はベッドの方に近付いてきて、そのまま腰を降ろす。
「ど、どうしたの?」
「……いいかな?」
「え?」
「い、一緒に寝ても……いいかな?」
「……はぁ!?」
あまりのことに開いた口が塞がらなかった。
いやいや……さすがにそれは不味いでしょ。さすがに。
僕が明らかに苦々しい顔をしていると杏はまた泣きそうな顔になった。
「だ、ダメ?」
……ダメだ。本当ならば絶対にダメなのだ。
でも、幼馴染にこんな可愛らしい顔をされては、さすがの僕の理性も、崩壊してしまうのも仕方がなかったのである。
「……あ、ああ、い、いいよ。だ、大丈夫。別に」
大丈夫、のわけないのだけれど……こうなってしまっては仕方ないような。
いや、それでも断るべきなのだろうけど。
しかし、杏はそのまま僕に添い寝するように横になった。
「ふふ……小さい頃以来だね。こんな風に……」
「そ、そうだね」
「私……今、すごく幸せだよ?」
上目遣いで杏は僕を見る。
あのツンツンした杏がここまでデレデレになるとは……
男冥利、いや、幼馴染冥利に尽きるって奴である。
今、僕、最高に幸せだなぁ……
「あ……じゃ、じゃあ、寝ようか」
「う、うん」
そのまま僕は寝た。
杏と一緒に。
来るべきすばらしき明日を期待して。




