決断の刻 8
「あ、そろそろお風呂に入る?」
僕がそんな風に考え込んでいると杏がそう言って来た。
「え? あ、ああ。まぁ……」
「もう沸かしてあるから、入っていいわよ」
風呂まで?
そりゃあ、家のことをやってもらえるのはありがたいんだが……
なんだちょっとやりすぎのような気もしないでもない。
そういえば、いつも夕食を作りに着てくれる夢は……って、来てくれるわけないよな。
あんなことしたのに。
「隆哉? どうしたの?」
「え? あ、ああ。何でもない。お風呂、入ってくるよ」
「うん。私も後で行くわ」
「え? あ、ああ……?」
後で行く、って……杏の奴、風呂までこの家で入る、っていうのか?
いくらなんでもそれは……かといって、今更強くは言えないしなぁ……
そんなことを考えながらも、僕は風呂に入ることにした。
入った湯船のお湯加減は丁度良かった。
「それでも、ガツンと言っておくべきだと思うがの」
ふいに神様の声が聞こえてきた。
「え……ま、まぁ、そりゃあ、そうだけど……」
「このままでは間違いなく、ワシの予想通りの結末になるの」
「それって……僕が死ぬってこと?」
「その通りじゃ。まったく。もう一度機会を与えてやったというのに……貴重な機会を棒に振るでない」
「棒に振るって……っていうか、僕、もう杏と付き合っているじゃん。もう神様の使命は果たされたんじゃないの?」
「そうじゃな。ワシの使命は半分くらい完遂されておるな」
「半分?」
「そうじゃ。男女が仲良く平和的に結ばれることこそが、ワシの使命じゃからな」
「じゃあ……何? 僕と杏が平和的に結ばれていない、ってこと?」
「そうではないが……まぁ、経過期間観察というところじゃの。期間中にお主にもしものことがあれば、ワシは使命を果たしたことにならんからの」
「なんだよ、それ……」
「ほれ。つべこべ言っておらんと、今のうちに仮初の幸せを享受しておくんじゃな」
と、神様の声が聞こえなくなった時だった。
「隆哉?」
と脱衣所の方から声が聞こえてきた。
「あ、杏?」
杏の声だ。脱衣所にいるようである。
「湯加減、どうかな?」
「え? あ、ああ。丁度いいよ」
「そっか……よかった」
「そ、そろそろ出るから、杏、次……入るの?」
「う、うん」
「そう……じゃあ――」
と風呂場で立ち上がったその時だった。
ガラッ、と風呂場の扉が開く。
僕は目を丸くした。まるで、そのまま飛び出んばかりに。
そこにいたのは、まぎれもなく、生まれまま姿の杏だった。




