決断の刻 5
「はぁ……しかし、疲れたな」
家の前まで来て僕は大きく溜息をついた。
思えば女の子から告白されるという、男の子にしては人生においてかなり大きなイベントを一日に2回も連続でこなしたのだ。疲れないわけがない。
そのまま倒れこむようにドアノブに手をかける。
……ん?
何か、おかしい。
「……開いてる?」
僕の脳裏を一抹の不安が過ぎる。
全身に冷や汗がにじみ出てきた。
開いているのだ。鍵が。
僕は慌ててドアを開ける。そこには特にあらされた様子もない玄関が存在していた。
「ま、まさか……」
父さんと母さんがいない時に泥棒は困る。僕は靴を脱ぐと、恐る恐る廊下を歩く。
この先に泥棒が待ち受けていたらどうしよう……
そんな不安に駆られながらも僕はそのまま足を進める。
そして、リビングのドアを開けた。
「……へ?」
その時聞こえてきたのは、意外なものだった。
ご機嫌な鼻歌だ。
そのままリビングの奥のほうへ。
と、鼻歌が聞こえてくるのはどうやら、キッチンの方からのようである。
僕はそっとキッチンの方を覗いてみた。
「はぁ!?」
僕は思わず声を上げてしまった。
「あ」
と、振り返ったツインテールの後ろ姿。
「な、何やってんの……?」
「あら。お帰り、隆哉」
「え、あ……た、ただいま」
つい流れで返事してしまう僕。
そこにいたのは、笑顔のエプロン姿が眩しい杏だった。
「今、夕飯作っているから、ちょっと待っててね」
「あ、ああ……って、ちょ、ちょっと待て!」
「何よ。そんなに大きな声出して。びっくりするでしょ?」
「びっくりしたのは僕の方だよ! 杏! なんでここにいるんだ!?」
「はぁ? 何言ってんのよ? 当たり前じゃない。私達、付き合っているんだから」
「は、はぁ!?」
杏は悪びれた感じもなく、何気なくそういった。
いや……そりゃあ、付き合う、とは言った。
けれど、それは僕の家に侵入していることの理由にはならない。
そもそも、もっと重要な問題があるのだ。
「と、というか……ど、どうやってここに入ったんだ? 鍵は閉めてたし……」
「ふふ。愛し合う二人を阻むことなんて、何物にもできはしないわ」
「い、いや、だから、どうやって入ったのか聞いて……」
しかし、杏は笑っているばかりで全く応える様子はない。
というか、応えてもらったところでどうしようもない。
杏は既にもう僕の家に入ってきてしまっているのだから。
僕はそのまま大きく溜息をついて、椅子に座り込んだ。




