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決断の刻 3

 嬉しそうに、というより、恍惚とした笑みを浮かべる女の子。


 ツインテールの髪の毛が風に揺れている。


 しかし、彼女はあくまで不敵に微笑んでいた。


「なっ……ど、どうして……!」


 そこにいたのは紛れもなく、間違いなく、僕の幼馴染。逢沢杏だった。


 杏は嬉しそうにそのまま僕に駆け寄ってきた。


「ね、ねぇ? 今、アンタ、夢の告白断ったわよね?」


「え? み、見てたの?」


「ち、違うわよ! たまたまそこにいただけ! ねぇ? 断ったわよね?」


 なぜか目を輝かせて僕を見る杏。あまりの迫力に僕は頷いてしまった。


「そ、そうよね! で、言ったわよね!? 夢とは付き合えない、って!」


「え? まぁ、言ったけど……」


「だったら……そ、その……」


 と、ふいに杏が後ろに下がって僕から離れる。


 そして、そのまま上目遣いで恥ずかしそうに僕を見る。


 あ、あれ? まさか、これって――


「わ、私と……つ……付き合いなさい!」


「……はぁ!?」


 すごく恥ずかしそうな顔で僕を見る杏。


 杏が……僕と付き合う?


 それは夢との交際以上に考えられないことだった。


 なぜって……あの杏だからだ。


 いつも僕には高飛車で、僕のことを都合のいい幼馴染くらいにしか思っていない杏が僕に告白してきたっていうのか?


 信じられない事実の前に僕は呆然としてしまった。


「い、いいじゃない! ゆ、夢はダメだったんだから……わ、私はどうよ!?」


「え? ど、どう、って……」


「わ、私のこと好きじゃないの!?」


「い、いや……そんなことはないんだけど……」


「だったら! 私と付き合いなさいよ!」


 半ば強制的な感じで、僕に迫ってくる杏。


 完全に僕はその時テンパっていた。


「え、あ……」


「どうなのよ!? はっきりしなさいよ!」


「あ、あ……え、えっと……」


「隆哉!」


 思わず僕はビクッとなってしまった。


「は、はい」


 そして、半ば反射的にそう言った。


「え? い、いいの!? 私と付き合ってくれるの?」


「は、はい」


 すると、ぱぁっと顔を輝かせて僕を見る杏。


 ……不味い。これは確実に不味い。


 何が不味いって、言ってしまったからだ。


 今、わかりました、と。


「ほ、ホントに? ホントに付き合ってくれるのね?」


「え、ま、まぁ……」


「はぁ? 何その態度? はっきりしないさいよ!」


「あ、ああ! つ、付き合うよ! 付き合う! 僕は、杏と付き合う!」


 すると杏は少し驚いたように僕を見る。


 しかし、その後、満面の笑みを浮かべていきなり僕に抱きついてきた。


「なっ……!? あ、杏!?」


「や、やったぁ! つ、ついに! ついに、この時が来たわ!」


「あ、杏! ちょ、ちょっと! そ、そんな強く抱きしめないで!」


「ううん! もう絶対離さない! 絶対!」


 夢見るような瞳で僕を見上げる杏。


 嘘だろ? これが……杏?


 いつもは僕の前でキツイ態度ばかりとっていたのに、まるで今は可愛らしい女の子だ。


 嬉しそうに僕に微笑んでいる。


 なんだかここまで喜んでもらえると僕も嬉しくなってしまった。


「あ、あはは……そ、そう」


「うん! ホント、夢みたい! 隆哉と付き合えるなんて……」


「あ、ああ。僕もまさか杏にこんなこということになるなんて、思いもしなかったよ……」


 すると杏は少し怪訝そうな顔をする。


「ちょっと。何? 私は隆哉の眼中になかった、ってこと?」


「ち、違うよ。そういうわけじゃないよ……」


 しかし、すぐに笑顔に戻って杏は嬉しそうに微笑む。


「……ふふ。いいのよ。だって、もう私は隆哉と付き合っているんですもの。隆哉には私しか見えないし、私にも隆哉しか見えない……だから、私達ずっと一緒……ね?」


 そういってニッコリと笑う杏。


 ツインテールが風に可愛らしく揺れていた。


 そこで見た杏は、今まで僕が見てきた逢沢杏という少女の姿の中でも一番、可愛らしいものだった。

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