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決断の刻 2

 一迅の風が吹き抜ける。


 風が、夢の短い髪を揺らしていた。


 夢は震えながら僕を見ていた。


 僕も夢を見つめる。


 しかし……僕は夢から顔を反らした。


 夢の表情が一気に不安そうなものになる。


 そして、喉から絞りだすように僕は声を出した。


「……ごめん」


「え……」


 絶望に打ちひしがれた表情というのはこういう顔なのだろう。


 夢は信じられないという風に僕を見る。


 僕としても夢のそんな表情は見たことがなかった。


 そりゃあ、そうだ。


 僕が見てきた夢の表情は、いつも笑っていて、幸せそうなものなんだから。


「……ごめん。夢。好き、っていうのは、僕と付き合いたいとか……そういうことだよね?」


「う、うん……」


「ダメなんだ。僕は夢とは付き合えない……」


「そ、そんな……」


 夢はボロボロと涙を流す。


 僕だって泣きたかった。でも、ダメなのだ。


 夢と付き合えば、確実に僕は死への運命へと近付いてしまう。


 だったら、ここは涙を呑んで夢の誘いを断るべきなのだ。


「そ、そっか……あ、あはは……そ、そうだよね」


「ごめん……」


「う、ううん。いいんだよ。それが、タカ君の決定なら……わ、私はタカ君の決定に従うだけだから……」


 涙を拭いて精一杯笑う夢。


 笑うというよりも無理矢理顔を引きつらせているといった方が正しかった。


 僕はなんだかすごく酷いことをしている気がした。


 それこそ、殺人よりもよっぽど酷いことを。


「じゃ、じゃあ……私、今日は帰るね」


「え? ちょ、ちょっと、夢!?」


「だ、大丈夫だよ。で、でも、今日は帰らせて……」


 そのまま夢は走り出した。そのまま僕の横を通りすぎて屋上を駆け下りていく。


 取り残された僕は、大きく溜息をつくしかなかった。


「よかったのかのぉ? あれで」


 神様が話しかけてくる。


「……ああ。いいんだよ。こうでもしなきゃ、僕にとっても夢にとってもつらい結末が待っている。だったら、こうするのが一番ベストな選択なんだ」


「ふむ……で、どうするんじゃ?」


「は? 何が?」


「じゃから、森崎夢の告白を断って、どうするのじゃ?」


「え? そ、それは……」


 もちろん、そこから先は考えていない。


 僕は夢の告白を断るという選択はした。


 だけど、その後の選択については考えていない。


 というか、考えないようにした方がいいと思ったのだ。


 何も考えず、なんとか無難に過ごそうと。


 僕も人間だ。死なないようにするのが第一だと考えていた。


「さ、さぁ? 考えてないけど……」


「そうか。じゃが、運命は待ってくれんようじゃな」


 その言葉に僕は寒気を覚える。


 いや、正確には背中に、だった。


 誰かが僕を見ている。


 そう。見つめている。


 期待の眼差しで。狂気さえ感じるような視線で。


「……うふふ。終わったわね」


 僕はゆっくりと振り返った。

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