決断の刻 1
「ふむ。ついにやってきたの。決断の時が」
屋上へ向かう僕の頭の中で例の小石川の神様が話しかけてくる。
「ああ。そうだね」
「しかし……お主の腹は決まっているようじゃが……ホントにそれでよいのかのぉ?」
「へ? どうして?」
「いや。ワシがとやかく言うことではないんじゃが……とにかく、それでよいのか、と聞いておるのじゃ」
「……ああ、もちろん。僕の決意に迷いはないよ」
自信満々に頭の中の声に返事をする。
そうだ。これでいい。僕が考える最善の策はこれだ。
僕はあくまで意気揚々と屋上へと向かった。
階段を登る足取りは、生き返る前の一ヶ月前より軽やかなものだった。
そう。既にこの先に夢が待っていることがわかっている。
どうやら、僕は本当に生き返って時間を遡ったらしい。
この頭に響くあの女の子の声も、ようやくここに来て神様であるということが信用できた。
こんなことができるのは神様以外の何者でもないからだ。
「ふふふ。ようやく信用してくれたようでワシも嬉しいぞ」
と、そんなことを考えていると神様がそう話しかけてきた。
「あ、あのさぁ……勝手に僕の考え読むのやめてくれる?」
「しょうがないじゃろ。手に取るようにわかるんじゃから」
「それでもさぁ……一応プライバシーってもんが……」
「よいではないか。ワシらとて、十年来の知り合い、お主の言う幼馴染のようなものじゃぞ?」
「はぁ? なんで?」
「お主は一ヶ月に一回、五歳の時から欠かさずワシの元へ訪れたのじゃ。ある意味、奴らと同じくらいの仲と言えないでもない」
「……神様と幼馴染っていうのもなぁ……」
「そうじゃよ。ふむ……ワシもお主に料理を作ったり、朝、起こしに行った方がいいのかの?」
「……面倒臭いことになりそうだから、やめて」
僕はそれだけ言って、屋上へと続く扉を開ける。
そこには紛れもなく、馴染みの後姿。
ショートカットの可愛らしい女の子、森崎夢がいた。
「た、タカ君……」
夢は頬を染めて僕を見ている。
ああ。思い出す。死亡する約一ヶ月前、確かにこんなシーンに出くわした。
その時、僕はある意味感動していた。
僕の人生でこんなシーンに出くわすことができるのか、と。
嬉しくて涙が出そうになったものだ。
「ど、どうしたんだ? 夢」
その時と同じセリフを僕は夢に言う。
なるべく声が上ずらないように平常心で。
「え、えっと……その……わ、私……」
それからしばらくモジモジとする夢。
そして、沈黙。ここまで全部一緒だ。
しかし、ふいに夢の瞳に決意の色が浮かぶ。
「そ、その……わ、私……タカ君のことが、好きです!」




