選択肢は一つ、ではない 8
「はぁ……全く、アイツにも困ったもんだな」
翼は困った風に杏を見ている。
「しょうがないじゃないですか。杏さんだって、隆哉君のことが好きなんですから」
と、ふいに後ろからおっとりとした声。
振り返るとそこにいたのは澪だった。
嬉しそうに微笑みながら僕を見ている。
「というか、私達幼馴染全員、隆哉君のこと好きですから。ね? 翼」
「お、おいおい……澪。いい加減にしろよ。確かに俺も隆哉のことは好きだけど、そういう意味の好きじゃない」
と、そういって翼は僕の方に向き直った。
「とりあえず、隆哉。お前は夢が作った弁当をちゃんと食べるんだ」
「え? あ、ああ……」
僕が戸惑って頷くと翼は満足そうに頷く。
「よし! じゃあ、もう問題ないよな? 夢?」
「え? あ、ああ……ありがとう。翼ちゃん、澪ちゃん」
「どういたいまして。ほら、澪。二人の邪魔をしないでさっさと席に戻ろうぜ」
翼はそのまま席に戻っていった。
「うふふ。翼も恥ずかしがっちゃって。やっぱり女の子ですね」
と、澪は目を細めて翼を見た後で、僕と夢のほうに顔を向ける。
「でも、翼が言うなら私も席に戻ります。夢さん。頑張ってくださいね」
そういって澪も席に戻って言った。
残された……というか必然的に隣の席なのだから残ったのは僕と夢だけだった。
夢は横目でチラチラと僕を見ている。
僕はなんだか気まずいのでとりあえず弁当を食べることにした。
「あ、あのさぁ……」
無心で弁当を食っていた折に夢が話しかけてきた。
「ほ、放課後……ちょっと、いいかな?」
来た。
ついに、来た。
「え? な、なんで?」
あくまで僕は落ち着いた様子で尋ねる。
「う、うん。ちょっと話したいことがあるから……屋上で」
夢は確かにそう言った。
ここだ。ここで僕の全てが決まる。
僕は口の中に含んだ弁当の中身を一気に飲み込んだのであった。




