選択肢は一つ、ではない 7
「あ、ちょ……」
「へへ~ん! ほーら、返して欲しけりゃ取ってみな!」
杏はそういって僕から弁当を遠ざける。
なんだか異常に絡んでくるな。今日の杏は。
そういえば、生き返る前のこの日もこんな感じだった気がする。
僕はいい加減にしてほしくて立ち上がる。
「お? 何? 隆哉、怒った?」
「お、怒ってはないけど……返してよ」
「嫌だね~、私が食べちゃうもんね~」
そして、そのまま杏は弁当を開け、中身を見てしまった。
「あ……」
と、杏がなぜか絶句する。
「ど、どうしたの?」
杏は目を丸くして僕を見る。
そして、次の瞬間には腹を抱えて爆笑し始めた。
「あはははは! な、何これ……ちょ、ちょっと夢……こ、この弁当はさすがに……」
僕はキョトンとして、夢を見てみる。
と、夢は既に顔を真っ赤にして僕を見る。
「み、見てみなよ! 隆哉……あー……お腹痛い」
そういって杏は、今度は普通に弁当を返してきてくれた。
僕は渡された弁当を見て同じように絶句する。
ご飯の上にハート柄の模様……
僕はそのまま夢の方を振り向く。夢は恥ずかしそうにうつむいていた。
「あ、あはは……ゆ、夢……いくらなんでもこれは……痛っ!」
「いい加減にしろ。杏」
と、杏の頭を拳骨が叩く。
見ると険しい表情で翼が杏の頭に一発お見舞いしていた。
「い、痛いじゃない! 何すんのよ!」
「何すんのよ、じゃない。ダメだろ。杏。夢を見ろ。恥ずかしくて死にそうじゃないか」
確かに夢は既に真っ赤になって頭から湯気が出るような勢いだ。
しかも、両目の端には涙を貯めている。
杏はそう言われて何もいえない、というか困ったように翼を見ていた。
「夢に嫉妬するのはいいが、程ほどにしろよ」
「は、はぁ? つ、翼? な、な……何言ってんの? こ、この私が嫉妬? は、ははは……呆れてものも言えないわ」
「じゃあ、なんで夢に突っかかるんだよ。放っておけばいいだろ」
そういわれてしまうと杏は反論できないようだった。
黙ったまま悔しそうに翼を見ている。
しかし、翼も翼で、そのままに杏を睨んでいた。両者のにらみ合いは続く。
……のように思われたが、杏は程なくして翼に一瞥するとそのまま自分の席に不機嫌そうに戻っていった。




