選択肢は一つ、ではない 6
昼休み、僕は机で待機していた。
そう。こうして待っていれば向こうからやってきてくれるのだから。
「タカくーん!」
来た。
僕はうっかり身構えてしまう。
「ど、どうしたの?」
「え? あ、ああ。な、なんでもない……」
しまった。身構えてどうする。
夢はすぐ隣にいるのだ。身構える必要もなにも、ないじゃないか。
「タカ君、なんか最近変だよ? 今日も授業中、一人で笑ってたし……」
「え? み、見てたの?」
「うん。どうしたの?」
……かなり恥ずかしい。いや、でも、しょうがない。
僕は気を取り直して夢に向き直る。
「い、いや……ただの思い出し笑いだよ。あ、あはは……恥ずかしい所見られちゃったな……」
照れ隠しに笑ったように見せると夢も笑ってくれた。
なんとか誤魔化せたようではある。
「じゃあ……ご飯にしようか」
そういって夢はカバンの中から弁当箱を取り出してきた。
二つ。
そう。二つだ。一つではない。
「今日はね。張り切って作ったんだー」
そう言われて夢は僕に笑いかける。
夢はいつでも張り切って僕にお弁当を作っているじゃないか。
それも毎日。
「あ、ありがとうな。毎日」
「え……う、ううん。いいんだよ。だって、幼馴染だもん」
「へぇ~。だったら、私も、翼も、澪も、隆哉にお弁当作らなきゃいけないわけ?」
と、いきなり割って入ってくる声。
見ると、夢の後ろから僕のことを杏が覗き込んでいた。
「あ、杏……な、なんだよ」
「別にぃ~? ただ、毎日毎日、お弁当作ってきてくれる幼馴染がいてうらやましいなぁ、って」
「お、お前も僕の幼馴染だろ」
「はぁ? 何? アンタ、私にお弁当作れ、って言っているの?」
馬鹿にしたように僕を見る杏。
昔はもっと可愛いところもあったような気がしたんだけど、ホント、コイツは最近、ムカつく女の子になっちゃったな……
「あ、杏ちゃん……」
「夢~。隆哉にだけじゃなくて私にもお弁当作ってよ~」
「え、えぇ~……だ、だって、杏ちゃんは、自分で自分の分のお弁当作れるでしょ?」
「嫌なの~、夢に作って欲しい~」
そして、杏は咄嗟のスキを見て僕のお弁当を掻っ攫った。




