あの素晴らしい日々をもう一度 6
「じゃあ、今日はこれで帰るね」
夢を玄関まで送っていく。
外は既に真っ暗だった。
「送っていこうか?」
一ヶ月前もこんな風に申し出たような記憶がある。
「え……」
そして、夢も同じように顔を赤くした。
「う、ううん。いいよ。そんなに距離もないし、一人で帰れるよ」
「そ、そうか……」
「……あ、あの! タカ君!」
と、そこでふいに夢の声が大きくなる。
そして、真っ直ぐに僕のことを見つめてきた。
「な、何?」
その瞳は熱っぽいきらめきで僕を見ている。
その視線に篭った感情が、いつも僕を見るそれとは違うということは、今の僕には理解できた。
「あ、あの……その……」
しかし、夢は口ごもってしまう。
そして、なんだか残念そうに俯いてしまった。
「あ、い、いいや。やっぱり、明日で……」
「え? い、いいのか?」
「うん。だ、だって、明日も会えるでしょ?」
気を取り直したようにニッコリと微笑む夢。
それはもちろんその通りだ。何せ同じ学校なのだから、毎日会えないわけがない。
「あ、ああ。そうだな」
僕も笑ってそれに返事をした。
夢はもう一度ニッコリと微笑んで、手を振ってそのまま去って行った。
「終わったかの?」
完全に夢の姿が見えなくなってから、実態を伴った小石川神社の神様が現れた。
長い白髪に着物。先ほどと同じ姿である。
「ああ、終わったよ。でも……ホントに明日なの?」
「ん? 何がじゃ?」
「だから、その……夢が僕に告白してくるって」
「ああ。そうじゃよ。言ったじゃろう? ワシは丁度一ヶ月前にお主を蘇らせたんじゃ。その通りになる」
どうにもそれが信用できない。
確かに、状況だけ見れば、この自称神様の言うことは合っている。
だが、果たしてそれが本当なのかどうかは別である。
先ほど夕食をともにした夢は確かに本物の夢だった。
でも、僕は確かに死んだはずじゃ――
「おい、隆哉」
と、神様がふいに僕の名前を呼ぶ。
その感じはそれまでのゆるやかな感じではなく、厳粛なものであった。
「な、何?」
「お主、ワシのことを疑っているようじゃな。自分が時を遡って蘇ったという事実も」
「そ、そりゃあ……だって……」
すると神様はその整った面持ちを僕に近づけてきた。
気の遠くなるような良い匂いが、真っ白な髪から香ってくる。
「よいか? 今、それは問題ではない。お主がどう選択し、どういう末路に至るか、それが問題なのじゃ。言ったじゃろう。ワシはお主を誰かと結びつけることを目的としておる、と」
「い、言ったけど……」
「もし、お主、今回も下手を打てば、その先に待つのは……死、じゃぞ?」
そういって神様はリビングのほうへ戻っていった。
死……?
要するに間違った選択、行動をすれば、また僕は死ぬっていうのか?
僕はゴクリと唾を飲み込む。
いや、まだわからない。
明日だ。明日で全てがわかる。
僕はそう自分に言い聞かせ、自室へと戻っていったのであった。




