あの素晴らしい日々をもう一度 5
「ふふ。まるで新婚さんじゃのぉ」
と、頭の中で茶化すような声が聞こえてきた。
「……うるさいな。黙っててよ」
「え? 何か言った? タカ君?」
「え……あ、ああ。いや。なんでもないよ。あはは……」
と、夢に声が聞こえてしまったらしく、思わずひやりとする。
「馬鹿者。声に出して言うヤツがおるか。ワシは今、姿を隠してお主の頭に直接語りかけておる。お主も声を出さずに念じてわしと会話しろ」
「そんなこと言ったって無理に……あれ?」
と、そう思うと、なぜか自分の頭の中に自分の声が聞こえてきた。
驚いて目を白黒させていると、頭の中にまた笑い声が聞こえてくる。
「ふふふ。出来たではないか。それでいいのじゃ」
「あ、ああ……そうだね」
「しかし、今こうして見返してみると、森崎夢は異常じゃな。奴め。この家にお主が誰かを上げたのではないか、と疑っていたではないか」
「え? そ、そうかな?」
「そうじゃろ? ホントにタカ君がやったの、と。あれはどう考えてもお主を疑っておったぞ?」
「あ、あはは……そうだよね……はぁ……よかった。夢にバレなくて」
「……いや。ここは敢えてバラした方がよかったかもしれんな」
と、思わず僕は驚きの表情になる。
「は? 何言ってんだよ?」
「ふむ。お主はもし、ここで森崎夢にワシがここにいたことがバレたら、自分は殺されると思っていたようじゃが……そんなことはないぞ」
「は? な、なんで?」
「この時点ではまだ、森崎夢はお主を殺すことはあり得ない。言ったじゃろう? 森崎夢がお主を殺した理由は、お主が森崎夢と恋仲になっておきながら、他の女子とも関係を続けていたからじゃ」
「そ、そんなこと言ったって――」
「タカ君?」
と、目の前で覗き込むようにして僕を見る夢に、僕は驚いてしまった。
「ど、どうしたの? そんなびっくりして」
「あ、ああ……ごめん。ぼぉっとしてたから」
「もう……いつもぼぉっとしているでしょ、タカ君は」
しょうがないな、という顔で夢は嬉しそうに微笑む。
明日、夢はこんな感じで僕に告白してくるのだ。
そして、僕はそれを承諾した。そして、その一ヵ月後に夢本人に殺されたのだ。
僕はつい俯いてしまう。
そう考えるとなんだかこうして夢と一緒にいる時間も苦痛に思えてきてしまうからだ。
「どうしたの? タカ君」
「あ、ああ……大丈夫だよ」
「なんだか今日のタカ君、変だよ。疲れているんじゃない?」
「そ、そうかもな……で、でも、とりあえず腹が減ったよ。飯にしてくれるか」
変化の様子を悟られないようにするために、空腹に話題をそらす。
僕がそういうと夢は未だ納得いかないようだったが、キッチンに戻っていった。
一ヵ月後、死ぬとわかっていればどうすればいいのだろうか。
いや、そもそも、これは本当に一ヶ月前なのか。
確かにかなり一ヶ月前の僕の状態に酷似はしている。
だが、果たして明日、夢は僕に告白してくるのだろうか。
「してくるぞ。確実に」
頭の中で再び声が響いた。
「だから、お主はそれまでに考えておいたほうがよいな。お主がどうするか。同じ選択をし、同じ末路を辿るか、それとも……」
同じ選択。同じ末路。
この場合、夢の告白を受ければ末路は大体見えてくるのだろうか。
だったら、夢の告白を断るのか?
そんなこと、僕にできるのか? 夢の幼馴染である僕に?
「タカ君? おーい、タカ君?」
「え、あ、ああ。ごめんごめん」
「ホントに、大丈夫?」
心配そうな顔で僕を見る夢。
「あ、ああ。大丈夫だよ。じゃ、じゃあ、食べようか」
その後の食事中、夢は不審そうな顔を僕に向けていたのであった。




