あの素晴らしい日々をもう一度 4
「お、お待たせ……」
「あ……タカ君」
と、玄関の扉を開けた先にいたのは、夢だった。
「ど、どうしたの? 随分息が上がってるみたいだけど……」
「い、いや。大丈夫だよ。ちょっと部屋の片付けをしていたから……」
「部屋の片付け? そんなの、私に言ってくれればやったのに」
「い、いいよ。夢にそんなことさせられないよ」
夢はあくまで不満そうな顔で僕を見た。
しかし、その後、恥ずかしそうに俯きながらも僕を見る。
「え、えっと……じゃあ、上がっても、いいかな?」
「あ、ああ。どうぞ」
「じゃ、じゃあ……お邪魔しまーす」
そういって夢は靴を脱いで家に上がってきた。
そのままトテトテとリビングへ向かっていく。
僕は内心ドキドキしながらその後を着いていく。
もし、神様があの姿のままリビングにいたら……考えただけで身体が震える。
夢に内緒で女の子を勝手に家に上げているなんて、どう考えても、僕はまたこの場で殺されること確定である。
「うわぁ……す、すごいね。タカ君」
しかし、それは杞憂だった。
リビングは人っ子一人……それどころか、チリ一つない綺麗な部屋のままでそこに存在していた。
「あ、ああ。頑張ったからね」
「キッチンも綺麗に掃除しているし、ゴミも片付けられてる……これ、ホントにタカ君がやったの?」
何気ない質問。
だが、その時の僕には酷く突き刺さる質問だった。
もしや……バレてる?
「あ、あ、あ、当たり前だろ。僕以外に誰がやるんだ?」
僕は酷く不恰好に、慌てて夢の質問に返答した。
「まぁ……そうなんだけど。あんまりにも綺麗だから」
そして、キッチンをマジマジと見つめている夢。
「ほら、包丁だって、こんなに綺麗になってる」
そういって僕に包丁を見せる夢。
思わず僕は後ずさりする。
まるで、そのままその包丁がコチラに向かってくるのを怖がるように。
「ど、どうしたの? 大丈夫? タカ君」
「あ、ああ……」
「包丁が……怖いの?」
「ま、まぁ……そんなところだ」
「あはは。怖がりだなぁ、タカ君は」
と、笑顔で包丁を元の場所に戻すと、夢は冷蔵庫を開いた。
「あ。でも、タカ君。冷蔵庫は片付けなかったんだね」
「え?」
「だって、ほら、私が昨日来たときのまま。まぁ、私が冷蔵庫は管理しているから、整理する必要もなかったかな?」
そうだ。冷蔵庫はほとんど夢に使わせている。
むしろ、冷蔵庫が勝手に整理されていたら、夢は本格的にこの家に、僕以外の誰かが入っていたのではないか、と疑うだろう。
そこだけは神様に感謝したいところだった。
「じゃあ、夕食作るよ。ちょっと待っててね」
「わ、わかった」
いつも通り。
そう。夢は両親が出張に出かけてからほぼ毎日、僕の家に夕食を作りに来る。
そして、一緒にそれを食べる。
まるで押しかけ女房状態、というのは冗談にならない話だ。
そのまま僕はキッチンから少し離れた場所にあるダイニングテーブルに付属の椅子に座り、料理中の夢を見ていた。




