バッドエンド 1
「ちょ、ちょっと……ま、待ってくれ……!」
降りしきる雨の中、僕は目の前の女の子にそういった。
「……ダメだよ。もう……限界」
女の子は目から雫――それが雨水なのか涙なのかはわからなかったが、とにかく僕にそう言った。
僕はジリジリと後ずさりする。
しかし、ガシャン、と無慈悲な音を立てて僕の背中が行き止まりになった。
ここは屋上。高いフェンスがまるで、刑務所を取り囲む壁のように僕の後ろに立ちはだかっていた。
「タカ君が悪いんだよ……みんなと……みんなと仲良くしてるから……!」
「ま、待てよ! ぼ、僕はそういうつもりアイツらと仲良くしてたんじゃない! 僕は――」
「言い訳なんて聞きたくない!」
土砂降りの中でも聞こえるような大声で、彼女はそういった。
「もう……ダメなんだよ」
そういって悲しそうにうっすらと笑みを浮かべ、女の子は手にもった包丁を構える。
「ま、待て! や、やめ――」
一瞬だった。
次の瞬間には女の子は僕の方に突進し、そのまま包丁を僕の胸に深く突き立てていた。
人間、あまりにも衝撃的なことが起こると反応できないものである。
僕はその時痛みも悲しみも感じていなかった。
ただただ、自身の心臓の部分に包丁が突き刺さっていることだけが、驚愕に値する事実だったのである。
「あ、あはは……やっちゃった……刺しちゃった……わ、私、た、タカ君のこと……!」
壊れたように笑っている女の子。
僕はそのまま地面にぶっ倒れる。
自分の血が刺されたところからドクドクと流れ出ているのがわかる。
ああ。死ぬんだな。
この時僕は確信した。というか、それが事実だった。
段々と眠くなってきた。眠くなってきた、というよりかは強制的に意識がシャットダウンされる感じ。
そうか……これが死ぬ、ってことなのか。
「あ、あはは……あははははははは……!」
土砂降りの雨音、そして、彼女の狂気染みた笑い声だけが、いつまでも続いていたのだった。