男郵便局員が見た二人《山籠もりから移動》
この家で最後だな……。
ん?
「なんでだよ!」
スポーツをしているからだろう黒く日焼けした少年。そして目が大きく可愛らしい顔をした少女。
「いやっ」
少年が腕を掴もうとして少女が勢いよく跳ね除ける。
え? どうしよう……。助けたほうがいいのかな、嫌がってるみたいだし。
そう思っていると横を何かが通り過ぎていった。
「あっ、お母さん!!」
懇願するように少女が駆け寄り、そして驚いた顔をした母親と思われる人の車に飛び込む。
「おい! 待てよっ!!」
少年はそのドアを開けようと慌てて駆け寄っていく。けれど、轢かれるのを恐れたか車が動き出すと後ろへ下がる。勢いよく出て行った車に俺は呆然として見送った。ふと我に返って横を見ると少年がその場に固まっていた。
「……くそっ」
その横顔姿は明らかにあの少女が好きだと物語って……。
あーいいよなぁ。俺もこんなに思ってくれる人が欲しい。勿論、女性がいいけどね。
数ヵ月―――――――
「こんにちは」
あのちょっと衝撃的な場面の主役少女に再び出会う。
今日もここで最後だ、多少時間が掛かってもいい。少女が俺の持っている封筒の方をチラチラと見て気にする様子にポストに入れるのを躊躇した。
「そればあちゃん宛ですよね? 実はここ中に2軒あるんです」
その言葉に俺は先ほどの視線の意味に納得した。
「次からおばあちゃんの分はあっちに入れてくれたら有難いです」
家の奥を少女は指を差す。目を凝らしてみたが俺からは見ることができない。
「すいません、ここからでは分からないですよね」
アワアワと動揺する仕草が可愛く思えた。
「案内するのでついてきてください」
どこかでバイトでもしているのか案内しようとする動きは完璧。
「ここですって、あっ……」
いきなり少女が物陰にすっと隠れた。俺はびっくりして見て、その視線の先にはあの少年。
「ふふふ。脅かしてしまいましょうか」
いたずらっ子のような笑い。
「……やめておきましょう。郵便屋さんあそこのポスト見えますか」
すっと冷静な表情でこちらを見てきたとき、思わずドキッとしてしまった。
「ええ見えますよ」
「あれです」
「ああ、なるほど。次からおばあさん宛ての郵便物入れておきますね」
「ではバイクのところに戻りましょうか」
表に戻ろうとするとき、俺はあの事が気になって仕方がなかった。耐え切れず失礼だと思いながらも聞いてみることに。
「彼は知り合いなんですか?」
「実は彼氏なんです」
「え……? 随分前喧嘩しているように見えたんですが……」
「あ、あれ見ていたんですか!!!」
「すいません。盗み見るつもりは……」
「うーんとですね。あれから彼を好きになったんです」
急に真っ赤になって照れた少女。
「へぇ」
でも、その後言った言葉に眉間にシワを寄せてしまった。
「子供扱いをして頭を撫ぜた時のあのむすっとした顔が好きなんですよね」
え? この子意外とSなの??
「本人には内緒ですよ?」
「はい」
そこでバイクについてしまった。
もうちょっと詳しく話を聞きたかったけれど……。流石に尋ねすぎか。
「では、これで」
俺は営業スマイルを顔に浮かべる。
「はい。手紙ありがとうございました」
少女が家に入っていくのをぼーと見ていた。
何気ない日常に面白味を感じた瞬間、そういうのがあるとやはり楽しい。
山籠もりからの移動作品です