第六話 マゼンタ
今回は五話、六話同時投稿です。書いちゃってるんだったらさっさと出すべきだと思いまして。
廃校となった語山小学校。
GPS反応はここで止まっている。紅は今にもつぶれてしまいそうな両足に鞭を打ち、汗だくの体で校舎内へ入って行った。
廃校となった当時そのままの姿をしている校舎。切れた電灯、止まった水道。
満天の星空だけが、唯一の光だった。
「コウちゃん、くそっ。」
紅はひとり呟く。紅がこんなにも自分のした過ちを憎んだのは初めてだった。
どうして、コウちゃんを一人にさせたんだろう。
自分に対する怒りに震えた。
「寿 コウが心配か?」
突如、紅の目の前にあの男が現れた。白のスーツ、茶色の髪、くわえ煙草、スーツケース。
他でもない、あの男だ。
「マゼンタ。」
「ほう、名前を覚えていてくれたのか。それは光栄だ。」
口にくわえた煙草を左手に持ち、フッと煙を吐いた。
「何でお前がここにいる、コウちゃんはどうした!」
紅の中にあった感情は恐怖ではなく怒りであった。だから今も目の前の恐怖に対して、叫ぶことが出来る。
「それは私が聞きたい。」
「お前がコウちゃんを誘拐したんじゃないのか!?」
「さぁ?何のことだ。」
紅は目を大きくした。
マゼンタはとぼけているのではない。本当に何も知らないのだ。マゼンタの表情がそれを証明している。
「まさか、でも、じゃあ何でお前はこの村にいるんだ?コウちゃんを連れ去るためじゃないのか!?」
「私がこの村にいるのは、君の妹を守るように、我が恩人Mr坂田に命じられたからだ。
それにガド=ダ=ヴィンチ、今の名は寿 コウだな。彼女を連れ去るなど、とんでもない。
悪魔に魂でも売らない限りはな。」
紅は唖然とした。
「何だ、金城蒔良から何も聞いていないのか。」
「え!?」
紅はいよいよ混乱し始めた。
「何で蒔良が出てくるんだ!?蒔良を何故知っているんだ!?」
「はぁ、君はMr坂田からも金城蒔良からも何も聞かされていないのだな。私と金城は
ガド信仰会の名誉幹部。神器を持つ者だ。」
紅は神器という言葉で、焚火の時の蒔良が話してくれた昔話を思い出した。
「神器!?もしかしてあの時の話は本当だってのか!?」
「あの時の話とは?」
「十人の人間に神様が神器を渡して、闇に打ち勝ったっていう話だ。」
「なるほど、それは話したのだな、奴は。」
「ということは、神様っていうのはまさか。」
「そう。君の妹、寿 コウが神の生まれ変わりだ。どうして気付いた?」
「あんたがさっき、コウちゃんのことをガド=ダ=ヴィンチと呼んだのを思い出してな。俄かには信じられない話だな。コウちゃんが神様だなんて。俺はそんなの信じねぇぞ。」
「ふむ。じゃあ」
マゼンタは持っていたスーツケースや煙草を床に置き、両手を自らの頭の後ろに回した。
「何だ?」
「君の持つ携帯電話でMr坂田に連絡をとって、事実を知るがいいさ。何なら金城でも良いが。私は君の電話中絶対にこの姿勢を崩さないと約束するよ。」
「あ、あぁ、分かった。」
紅は外に出、坂田に連絡をとった。
「もしもし」
<どうした紅、もう夜だぞ。>
「マゼンタって奴を知っているか?ガド信仰会の名誉幹部を名乗っている奴なんだが。」
<あぁ、勿論だ。僕が彼をコウのボディガードとして呼び寄せたのだ。あれ?紅に言ってなかったか?>
「そういうことはちゃんと伝えやがれ!」
<あぁ、言ってなかったな。すまんすまん。>
「今、マゼンタから、コウちゃんが神様の生まれ変わりだって聞いた。それって本当なのか?」
<それは故意で伝えなかった。お前がもしかしたら傷つくんじゃないかと思ってな。すでに知ってしまったなら躊躇はしないぞ。そう、お前の言う通りコウは神様の生まれ変わり。勿論の事、今のコウには神様だった記憶はない。ただ、何故だか知らんが、コウに神にしかありえないような力が備わっていた。>
「絵を描くと、それが具現化する力。」
<そうだ。>
「坂田さん、あんた前に、コウちゃんを幽閉したのはガド信仰会だとかなんとか言ってなかったか?」
<言葉が足りなかったな。コウを幽閉したのはガド信仰会でも一部の宗派。特にそのリーダーの男だ。>
「じゃあマゼンタや蒔良は別に悪い奴じゃないんだな。」
<蒔良?君の彼女か?彼女も信仰会のメンバーなのか?>
「マゼンタ曰く、だけどな。」
<まぁ、とりあえずマゼンタは信用していい。彼はお前の力になってくれるぞ。>
「おう。」
<ところで紅、何故こんな時間にマゼンタの話を?あと今日頼んだ買い物はどうした?>
「俺、急いでるから切るわ。」
<あ、おい紅!>
紅は後に怒られること覚悟で電話を切り、マゼンタのところに戻った。マゼンタは約束通り同じ姿勢を保っている。
「どうだ、Mr坂田との会話で得たものはあったか?」
「情報を得て、信頼を失ったよ。」
紅は苦笑した。それを見てマゼンタも苦笑した。
「で、マゼンタ。コウちゃんの場所は分かっているのか?」
「まだ見つかっていない。よし、共に寿 コウを探すぞ。」
「おう!」
紅の中の恐怖はすでに無くなっていた。横にいる男はもう、恐怖ではなく頼もしい仲間。
一人ぼっちだった紅の心細さは吹っ切れた。
捜索し始めてから十分経過。
尚コウは見つからぬまま。
「ここもいないか。」
図書室から出てきたマゼンタは大きな溜息をついた。
「なあマゼンタ。」
「何だ?」
「お前の言う神器って何なんだ?」
「一言でいうと、武器だな。神器のほぼ全てが攻撃的なものだ。私の神器も攻撃用のものだ。」
そう言うと、マゼンタは左胸ポケットから美しい赤色の弾丸を取り出した。
「これは神器弾丸<百発百中>という。こいつを装填して発砲すると、どこに打とうが絶対に自分の狙いに的中するようになっている。そしてこの弾丸、いや、神器全般に言えることだが、何回使ってもどれだけ傷ついても完全に再生する力がある。つまり永久に使えるということだ。」
「す、すげぇな。」
紅は弾丸を手に取り、心を躍らせた。
やはりまだ紅にも少年のような心があったのである。
ふと紅は、弾丸に小さな石のようなものが填められていることに気付いた。
「この宝石みたいなものは?」
「それは玉という。全ての神器に付いていて、それが神器の唯一の弱点でもある。その玉が破壊されたとき、神器は力を失ってしまう。扱いには十分気を付けてくれ。」
「あっ、あぁ。」
紅はあわてて弾丸をマゼンタに返した。
賢明な判断だ。とマゼンタ。
そりゃどうも。と紅。
割れたガラスに気を付けながら、二人は美術室の前を通りかかった。
ひびの入った白色の彫刻が、今にも動き出しそうである。よく学校の七不思議などではピックアップされている。そんなことは今の紅にはどうでもいいことだ。
「マゼンタ、蒔良も神器を持っているんだよな。」
「あぁ、でも今は君が持っているんだろう?」
「は?俺が?」
「先日、金城から装飾品を受け取らなかったか?」
「装飾品?あぁ、ネックレスか。」
紅はズボンの中に偶々入れていたネックレスを取り出した。確かに中央には玉が填め込められている。
「これが神器。一体どんな力なんだ?」
「神器装飾<才色兼備>だ。」
「へ?」
「それを持つ者は、絶世の美少女になれる。」
「ええええええ!」
「安心しろ。その能力は女性にしか効かない。金城は元から絶世の美少女だったから、
正直無駄な神器だとは思うが。」
「何で蒔良はこんなものを俺に?」
「その装飾にはもう一つ力があるが、君には使いこなせんだろう。何故君にこれを渡したのかは分からん。」
「はあぁ」
紅は足から崩れ落ちるような感覚に浸った。
蒔良、お前の考えていることは俺には分からないよ。
「溜息時間三秒か。人は溜息をした時間一秒ごとに寿命が一年早まるらしいぞ。たった今君の寿命は三年縮まったな。」
「マゼンタ、俺はあんたが会話の中に冗談を詰め込める人間には見えなかったぜ。もっと冷徹な人だと思ってたよ。」
「私は君をただのガキだと思っていたが、血の繋がらない妹の為に命の危険も顧みず来るとは、君は優しいを通り越して、間抜けな男だ。」
「今のは罵倒か?」
「褒め言葉だ。」
紅は照れ隠しした。男に褒められたのは坂田以外初めてだった。
「一体ダヴィンチはどこにいるんだ。手がかりも残っていない、せめてGPSのようなものでもあれば。」
マゼンタの言葉に紅ははっとした。
「そうだ、GPSだ!」
「はぁ、君は間抜けな男だ。」
マゼンタは溜息をついた。今のは確実に褒め言葉ではなく、罵倒である。
「溜息時間二秒か。マゼンタの寿命二年早まったぞ。」
GPSは小学校の屋上を指している。紅とマゼンタは急いで屋上まで駆けて行った。
屋上の扉に張り付き、神器弾丸を込めるマゼンタ。紅はこれから起こる戦いを想像して、息を飲んだ。
マゼンタはドアノブを握り、一気にドアを開け放ち、銃を構えた。
その後に紅は続く。
屋上にいたのは紅の見知った人間。
紅は思わず声を上げる。
「大橋先生!?」
紅は驚きを隠せない。目の前にいたのは担任教師で、その手にはコウのスマートフォンがあり、タバコではなくコーヒーシュガーの袋を咥えている。
大橋は斜め上を向き、袋の中にあったコーヒーシュガーを口の中に流し込み、飲んだ。
空になった袋を吐き捨て、紅の方を睨んだ。
「やぁ紅、どうしたんだ?こんな所に来て。しかもこんな夜中に。」
「どうしたもこうしたもねぇ。何で大橋先生がここにいて、コウちゃんのスマートフォンを持っているんだ!」
「そうか。今日のお前は生徒ではなく、敵という訳だな。」
紅は三歩ほど後退した。
「この大橋韻次は私と同じ神器持ち。神器義足<電光石火>だ。私の弾丸よりも何倍も早く動くことが出来る。気を付けろ、紅。」
マゼンタは震えている紅の肩に手を置いた。紅はマゼンタが初めて自分の名前を呼んだことに驚いたが、今は驚いている場合ではなかった。
「大橋先生、聞かせてくれ。どうしてコウちゃんを誘拐した?何が目的なんだ!」
「私が神になるためだ。」
「神!?」
「そう、神だ。俺は日々、この世界の秩序について考えている。どうすればこの世界は平和になるのか、辞書から戦争という文字を消せるのか。その答えはいつも同じ。
この世界に必要なのは人間により作られた偽善平和ではない。この世界を統一する絶対的な神だ。私は神の生まれ変わり、ガド=ダ=ヴィンチを手中に収めることで神になり、この世界のアンバランスをバランスのとれたものにしてみせる。そうすれば紅、お前の嫌いなこの村だって、栄えた都市にすることだってできる。」
「つまんねぇな、先生の話は。だから授業中大半の生徒が寝るんだよ。」
「何だと?」
「あんたはこの世界の事を気にするより、自分の血糖値を気にした方が良いと思うぜ。」
「なっ…」
「あんたの考えなんて、俺にとってはどうでもいい。でも、あんたが言うガド=ダ=ヴィンチは俺の妹なんでね。好き勝手しないで欲しい。」
紅の横にマゼンタが並び立つ。
「紅、君はダヴィンチを助けに行け。この男は私に任せろ。」
「一応、担任だから、殺すとかは止めて欲しい。」
「あぁ。」
紅が後ろを向き、歩き出そうとしたとき、マゼンタが左手を挙げた。
「何だ?マゼンタ。」
「こういう時、人はハイタッチするものだと聞く。もし私への警戒心が無くなっているならば、是非お願いしたい。」
紅は微笑んだ。
「ハイタッチをお願いする奴、初めて見たぜ。」
紅は右手を挙げ、マゼンタとハイタッチを交わした。その音は静かな村に響き渡る。
紅は屋上の階段を猛スピードで駆け下り、コウの居場所を探し始めた。
「さぁマゼンタ君。君は確か神器弾丸<百発百中>だったね。俺の神器義足<電光石火>に勝てると思っているのかい?」
「私は、私に課せられた役目を果たすだけだ。」
「そうか、では始めようか。」
「あぁ。」
マゼンタはハンドガンを大橋へと向けた。中には神器弾丸が込められている。
焦点を大橋の義足に合わせる。
「遅い!!」
一瞬のうちに大橋は焦点から消え、マゼンタの目の前まで移動していた。
大橋は右手に構えていたダガーをマゼンタの右腹に突き刺した。
溢れ出す血液、マゼンタの苦痛に歪んだ顔。
大橋はマゼンタのハンドガンを奪い取り、マゼンタの額に突き立てた。
「どうやら君への授業は終わりのようだ。マゼンタ君。」
大橋は引き金を引いた。
日本語がまだ下手ですね。いや、日本人ですよ。
日本人でも、日本語はうまく使えない。外国人に笑われそうな話です。
いよいよ次回はクライマックス。
投稿が楽しみです。