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群青ダヴィンチ  作者: SKULL
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第二話 星空への願い事

つまらぬ話ですが見て行ってもらえると嬉しいです。

「今日からコウは紅、お前の妹になる。義理の妹という奴だ。」

「ちょっ、ちょっと待てよ。」

「なんだ紅。君は妹萌えではなかったのか?」


にんまりとした顔を浮かべる坂田。


「んなこと聞いてんじゃねぇ!訳がわかんねぇ。妹って、何なんだよ!」


紅は怒りと混乱に翻弄されていた。


「紅、この教会にいる子供たちは皆、家族なんじゃなかったか!?」

「あ、あぁ」


紅は少し落ち着きを取り戻した。


「いや、でも何でこの娘だけ特別枠なんだよ。苗字も寿って。」

「まあ何だ、俗に言う証人保護プログラムのようなものだ。」

「名前を変えたという訳か。それにしても何で苗字が寿なんだよ!」

「だから最初に言ったろ。この娘は…コウは今日からお前の妹なんだ。一緒に生活してもらうことになる。」


生活!?


紅は激しく動揺した。


「生活!?何で俺!?坂田さんが教会で預かったらいいじゃねえか。いつもみたいに。」

「それが出来たら、お前には頼んでいないよ。」


坂田は小さく舌打ちした。

坂田が紅に折り入って頼みごとをするのはこれが初めてで、その頼みがどれほど重要であるか、紅はすでに知っていた。

わざわざ名前を変えなければならなかった、坂田ですら手を焼く内容。この少女がどれほど危険に晒されているか、紅は何となく理解していた。

紅は一回、大きく深呼吸した。 覚悟はできている。


「坂田さん、この娘について知っていることを全て、俺に教えてくれ。」

面倒くさがり屋の紅の言葉に、坂田は驚きを隠せなかった。

紅は両手を自分のズボンのポケットに突っ込んだ。


「俺には坂田さんの頼みごとに耳を傾ける義務がある。理由はそれだけだ。」

「じゃあ、話そう。コウは皆のいる部屋に戻っていなさい。」


「はい」と答えると、コウは部屋まで走って行った。

コウが居なくなり、大聖堂は坂田と紅の二人きりになった。二人だけの大聖堂は、やはりどこか寂しい。


坂田と紅はベンチに腰かけた。


「まずは紅、お前はコウのことをどれほど知っているんだ?」

「知ってるもなにも、俺とあの娘は今朝駅で会ったばかりだ。知らないに等しい。」

「そうか。ではあの娘に今何が起こっているか。それを話そう。」


坂田は真剣な表情を見せた。


「コウは生まれつき、常人にはありえない特殊な力を宿しているんだ。魔法や超能力とは少し違う、あえて言葉で表現するなら<神から授かった力>だ。」

「は!?」


紅は驚き呆れた。現代の科学社会に神という理論は存在しない。神という言葉を使うのは、

話している当人が神の教えを説く牧師であるからだと考えた。


「その顔は、信じていないな。」


坂田は疑いの目で見ている紅に気付いていた。


「そりゃあ、信じられないな。まあ俺が信じていると仮定して話してくれても構わない。

何なんだ?その、<神から授かった力>って。」


坂田は少しの間黙りこみ、紅の顔を再度見て、口を開いた。


「リンゴを描けば空からリンゴが降ってくる。花を描けば地面からその花が咲く。つまり描いた絵をリアルな世界に実体化させる力だよ。」


現在の時刻は午後六時三十分。教会にある大時計がそう教えてくれた。

坂田は紅に現実とはかけ離れた事実を語った。それを紅は真剣な表情で聞き続けた。

コウの生まれ持った能力。犯罪組織にそのことが知られて、コウの両親が殺されてしまったこと。八年間組織の牢に閉じ込められ、武器、金、麻薬の絵を描かされ続けたこと。

そして、


「コウはある日一つ思いつきをした。ありえない思いつきをね。

コウは牢の中で自画像を描いたんだ。その後、牢の地面に転がっていた大きい石コロを丸呑みして、死んだ。もしかしたらそのとき、コウは自分の生まれ持った能力に気付いていたのかもしれない。コウは自分の実体化を願い、自殺した。」


紅はコウの死に様を想像し、吐き気を催した。

さぞ痛かったであろう。苦しかったであろう。


「その後、組織は壊滅したよ。警察のおかげだ。機動隊が地下牢に入ったとき、見つかったらしい。コウの死体と、彼女自身を描いた美しい絵がね。」


紅は自分の左手を右手で握り締め、歯を食いしばった。


「坂田さん、じゃあ彼女は、今この教会にいるコウは何者なんだ!」

「紛れもなくコウ自身だよ。記憶は全て失っているがね。六日前、雨だったあの日に、語山駅のホームで倒れていた彼女を見つけてね。 コウのことを調べるのは大変だった。パソコンは信憑性が低いから、わざわざ東京まで出向いて、様々な資料を手に入れたよ。」


坂田は教会の天井を見上げながら、少し笑った。


紅には気になっていることが二つあったので、思い切って聞いてみることにした。


「その、二つ質問があるんだけど。」

「何だい?」

「まず一つ目、なんであの娘はここ語山で見つかったんだ?」

「悪いが、僕にも分からないんだ。何か過去にあったとか、思い入れの強い場所だとか、

僕も何十年この土地で暮らしているけど、コウに関する情報は何もない。あくまで僕の仮説だが、この村はコウが身を隠すのに最適の場所だったからじゃないかな!?」


納得とまではいかないが、紅は理解した。

「で、もう一つの質問とは何だい?」


坂田は紅に質問した。


「あぁ、何故俺とあの娘が寝食を共にすることになったんだ?」


坂田は自分の白髪だらけの頭を掻きむしり、答えた。


「犯罪組織の残党が、再び集結し、組織を作り上げたという噂を東京で聞いてね。僕は東京で、コウの事ばかり嗅ぎ回っていたから、奴らも僕のことを怪しく思うだろうからね。

この村なら大丈夫だとは思うが、万が一に備えてだ。だから君に任せたいんだ。まさか男子高校生の一人暮らし宅にコウがいるとは誰も思はないだろうからね。」


確かにその通りだ。今度こそ紅は納得した。


だがこんな重大任務 俺に出来るのか?

ただの小学生のお泊り会とは訳が違う。

一歩間違えれば、死を招くことにもなりかねない。


そんな時、紅の頭に駅で出会ったときのコウの姿が映し出された。

そして紅の頭で今もなお響き続けるあの言葉。


話してくれてありがとう。


紅は自分の右手を握り締めた。

覚悟はできた。


「俺が守る。コウは俺が守ります。」


紅の眼からは一瞬の迷いも感じられなかった。


午後八時頃である。コウはすっかり眠っている。

本来なら明日紅の家に来る予定だったが、明日から学校があり、語山第一高等学校文化祭の用意で忙しかったため、今日コウを家に招くことにした。

眠っているコウを起こさぬように、そっと持ち上げ、背負った。紅は背中から伝わる重さを感じ、少し微笑んだ。左手でコウが落ちないようバランスを取りながら、右手にコウの旅行用鞄を持った。中にはコウの着替えなどが入っている。もちろんこの荷物だけじゃ、

コウが暮らしていくのに不便を強いることになりそうなので、買い足しは必要となるのだが…


「本当に一人で大丈夫か、紅?」


坂田は心配そうに見つめている。


「大丈夫だよ。この村の事を知り尽くしているのはあんただけじゃないからな。」


教会の扉を開け、出ようとした時に、紅の頭に一つ坂田への質問が浮かんだ。


「坂田さん、コウに酷いことをした犯罪組織の名前ってなんだ?」

「ガド教信仰会だ。」


やはり宗教がらみか。どうりで坂田さんが情報を手に入れやすかった訳だぜ。


紅は外に出た。

そのとき坂田が声をかけた。


「紅、一つだけ。 コウに絵を描かせてはならんぞ。」

「何故?」

「記憶を失っていても、その娘の能力は顕在だ。もしかするとお前の身にも危険が降り注ぐかもしれない。まぁ、当人が絵好きだから難しいとは思うが。」


なるほど。

俺がこの教会へ来たとき、坂田さんがえらく怒っていたのはこの所為か。駅でコスモスの絵を描いていたから。


「なるべく、絵を描かせないよう頑張るよ。」


電灯も何もない暗闇の道を、紅はコウを背負って歩いた。

唯一頼りになる光は、夜空に輝く満天の星だった。

あまりに美しすぎて言葉も出ないような星空だったが、紅にとってその星空は日常の一部分に過ぎず、何の感動も覚えなかった。むしろ背中から伝わる人間の重さというものに紅は感動しているようにも見える。


そして語山を下山した。


家まではあと何キロかある。今の時間じゃ、終電もとっくに行ってしまっている。


そんなとき、後ろのコウがくしゃみをして、起きてしまった。やはり秋の夜はパジャマの上にパーカーを着ているだけじゃ寒いのも当然だろう。

コウは自分の現在の状況を理解することが出来ず、混乱していた。


「お、お兄ちゃん? 私は何でここに?」

「今日からお前は俺の家で暮らすんだ。坂田さんから聞いているだろう!?」


「うん。」


コウは軽く頷いた。


「改めて自己紹介しておくよ。俺は寿ことぶき くれない。十八歳、語山高等学校の三年生だ。」


紅が自己紹介が終わると、すぐさまコウも自己紹介した。


「私は寿ことぶき こう。その、十一歳です。」

「よろしくな。 えっと、」


紅はコウの事をどう呼ぶかを考えた。そのままコウと呼んでも良かったのだが、何となくコウと呼ぶのは遠慮した。


「よろしくな。コウちゃん!」

「うん!」


コウはまた頷いてみせた。

「えっと、コウちゃんに質問なんだけど。」


紅はまた、口を開いた。


「何?」

「コウちゃんはどんな絵が描きたいんだ?」


紅は坂田に絵のことをきつく言われていたのを忘れていた。

コウは少し考えたが、すぐに回答を出した。


「お父さんとお母さん。」


紅は驚き、歯を噛み締めた。


「コウちゃんは何で両親の絵が描きたいんだ?」

「私のお父さんとお母さんはね、いつの間にか居なくなっちゃってたんだ。だから正直、顔も覚えてないんだけど、確かに居たことは覚えてる。私を育ててくれた大好きなお父さんとお母さんの絵が描きたいよ。でも、写真すら見つからない状況なんだけどね。」


紅はコウの話を目を瞑って聞いた。そして小声で言った。


「俺が見つけるよ、コウちゃんの両親の写真。」


コウは素直に喜んだ。


「ありがとう、お兄ちゃん!」


コウはぴったりと紅の背中にくっついた。

紅は少し照れたが、何よりも背中から伝わるコウの温かみが嬉しかった。


そんな中、満天の星空を見ると、流れ星が流れているのが見えた。

コウは流れ星を見て、声を上げた。


「明日もこの空いっぱいに星が輝きますように。」


何やら願い事のようだった。


「おいおいコウちゃん、流れ星への願い事は三回言わなきゃダメなんだぜ。」

「えっ!本当!?」


コウはひどく驚いた。紅はコウの方を見て、笑った。

紅の笑った顔を見て、コウは顔を顰めた。


「大丈夫だって、コウちゃん。きっと明日もこんな星空が見れるよ。きっと。」


家に着くまで、紅はコウに優しい言葉をかけ続けた。

もしかすると紅は背中から伝わるコウの温かみに感謝していたのかもしれない。



そしてまた物語は動き出す。







すぐにまた三話投稿しますね

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