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短編

帰りたい場所

作者:

なんとなく設定も作らずに書いてしまったモノです。


キャラに名前すらないので分かりにくいかと思いますが、最後まで読んでいただけると幸いです。

 いつになったら、ここから離れられるのだろうか……




 帰りたいと思った。満天の星空、どこか懐かしく、安心する……


 初めて行ったプラネタリウムで、何故かそんな事を思った。

 自殺願望があるわけじゃないし、「死にたい」なんて思っても結局そんな勇気なんてない事くらい自分自身の事だから分かっている。


 友達と話す事は大好きだし、何気に仕事も大好きだ。

 じっと家に籠っている事も好きだけど、ショッピングに行く事も大好きで……そんな欲深い人間が潔くこの世を離れられる訳がない。

 だけど、見上げた人工の星たちが「帰っておいで」と囁きかけているようなそんな気になって、頬を伝う温かいものに、自分が泣いていたのだと知った。

 すぐ隣には、一緒に来ていた友人。

 気づかれていないか心配になってこっそりと横を盗み見て、こっちを見ていない事に安堵した。


「すっごい綺麗だったね。」

「だねぇ。前々から来たいと思ってたけど、中々来れなかったから今日来れて良かったよ。」


「今日の夜、星座探して見ようかなぁ」

「いいね!私も探して見る!!」


 ぽつりと呟いた私の言葉に、友人がテンションの高いままで同意を唱えた。


 時刻的に晩御飯をどうしようかと話しつつ、食べるには少しばかり早い時間で揃ってゲームセンターへ足を向けた。

 プリクラが大好きな友人は、手近にあった機械に入り手招きをした。


「これにする―。」

「本当にプリクラ好きだよね。」

「うんっ!!」


 首を大きく縦に振り満面の笑顔で答える友人に、可愛いなと思いながら機械にお金を入れていく。

 変顔や変なポーズを取りながらカメラに向かってピースを作る。

 毎回恒例になりつつある、お決まりのサルサルポーズでフィニッシュを飾り、落書きをすべくコーナーへ。


「あのさぁ……」

「うん?」

「さっき感動して泣いちゃった。」

「知ってる。」

「やっぱりか。」

「何年友達やってると思ってるのかなぁ?」

「確かに。」


 恥ずかしいなと思いつつ泣いてしまった事を伝えたら、案の定バレていた。見てないと思ったのにな。


 中学時代からずっと一緒だった。<親友>そう言っても良いくらい、お互いの事をかなり知っている……つもりだった。


 今日、プラネタリウムに行こうと誘ったのは私から。聞きたい事があったから。


「あのさぁ。」

「ん?」

「聞きたい事あるんだ。」

「何?」

「あんたさ、パパといつから付き合ってんの?」

「えっ!?」


 落書きタイムも残り少なくなって、私が言った言葉に友人は言葉を失った。


「なっ、何言ってんの?」

「あんたの言葉そのまんま返すわ。何年友達やってると思ってんの?」

「……」

「別に怒ってる訳でも、軽蔑してる訳でもないよ?」

「……」

「初めてパパに逢わせた時から、あんたずっとパパの事『カッコいい』って言ってたし。」

「……」

「あんたが年上好きなのも知ってるし?」

「……」

「だけどさ、言ってくれても良かったんじゃないかなぁって、思う訳だ。」

「……」

「だんまりかぁ……」


 私の言葉に一切返事を返さず、俯いたまま落書き用のペンを握りしめた。

 丁度落書きタイムが終了の合図を出したので、荷物を持ってプリクラが出てくるのを待つ。

 落ちてきたおまけと一緒に、写真を持ってゲームセンターを出る。

 そこでやっと黙ったままだった友人が、やっと重たい口を開いた。


「ごめんね?」

「なんであやまんの?」

「だって黙ってた。」

「そうだねぇ。」

「言おうとは何度も思った。」

「で?」

「でもね、やっぱ怖くて。」

「何で?」

「軽蔑しないって、逆に応援してくれると思ったけど……この関係が自分のせいで壊れたら嫌だなって思って……結局今日まで言えなかった。」


 一言一言紡ぐ度、友人の声が震えていく事に気付きながら、あえて私は黙って聞いていた。

 きっと悩んだんだろう。長い付き合いをしている友達の父親だ。

 嫌われたらどうしようとか、最悪は絶交されるとでも思ったんだろう。


 長い付き合いだからこそ気づいて欲しかった。そんな事を私はしないって。

 信じて欲しかった。「思ったけど……」『けど』と付く時は完璧に信じていない時。

 私は、何よりそれが一番悲しかった。


「想像通り、軽蔑なんかしないし、むしろ応援する。」

「……」

「パパだって若いし、あんたならママになってもいいって思うよ?まぁ、『ママ』なんて呼ばないけどさ。」

「……」

「私が言いたいのはさ、『何年友達やってんの?』って事。水臭いじゃん?てかさ、信頼されてなかったんだって悲しくなったよ。」

「……ごめん。」

「うん。」


 大粒の涙を流しながら、小さな声で嗚咽をかみ殺して呟いた友人に私ははっきりと言った。


「許す!!」

「……」

「友達だからね!てか近々家族になるし?」

「ぇ?」

「言ったっしょ?『怒ってる訳じゃないよ?』って。」

「うん。」

「私もさ、パパに言われるまで気づかなかったんだ。」

「え!?」

「何年友達やってんだかねぇ……なんか情けなくて。あんたの事分かってるつもりで何一つ分かってなかったんだなぁって。」

「そんな事ないよ?」

「そんな事があるんだよ。パパにさ、言われて気づいて思い返してみて色々繋がって行くんだよね。」


 ゆっくりと歩きながら、自分の思いを色々ぶつけてみた。

 何度も言うけど水臭いとか、もっと信用してほしいとか。何度も頷いて黙って私の言うことに耳を傾ける友人を見て、任せようと思った。


 私を生んですぐに亡くなった母。

 十代で父親になって、自分を優先せず私の為に一生懸命働いて育ててくれた。そんな父には、幸せになって欲しい。

 だから……任せよう。大丈夫、きっとこの子だから二人ともが幸せになる道を見つけていく。


「今日、このまま家おいで。」

「いいの?」

「大事な話があるからさ、あんたにも聞いて欲しいんだ。」

「分かった。」


 夜の7時を回って帰宅したら、既に父が帰ってきていた。


「おかえり。」

「ただいま。」

「お邪魔します……」


 友人を見た父の顔が、愛おしそうに歪んだ。

 そんな顔を直視してしまったらしい友人が顔を真っ赤に染めていた。


「はいはい、ラブラブなのは分かったから子供の前で見せつけないで。」

「あっ、ゴメン……」

「ははははは……」


 二人は気恥ずかしそうに、互いから視線を外した。


 父の横に友人を座らせて、二人の真向かいのソファーに一人座り、真剣な顔で私は話しだした。


「あのね。」

「どうしたんだ?もしかしてパパ達の付き合いに反対なのか?」

「いや、違うから……」

「そうか……じゃあ、何なんだ?」

「あのね……私この家出ようと思うんだ。」

「「えっ!?」」


 切り出した言葉に、黙って親子のやり取りを見ていた友人と父の声が重なった。


 家を出る事は前々から考えていた事。

 でも父を一人には出来ないと思っていたから今まで言わなかった。

 何でもそつなくこなす父が、唯一壊滅的に出来ない事がある。家事だ。

 今ではコンビニやほか弁など、食事をする事で困る事はない。だが、それがとても心配だった。

 栄養管理など考えてもいない父の事、誰かが作って管理しなければ栄養失調になることは間違いない。

 だからこそ、友人が父の側にいてくれるなら任せてしまえと思った訳だ。


「その子もいるし、私が気をつけなくてもいいでしょ?」

「……やっぱりパパ達の付き合いを見たくないのか?」

「違うってば!!二人の事は世間がなんて言おうと私は応援する!!」

「じゃあなんで……」


 力の入っていない声で、父に問われ私は思いのすべてをぶちまけた。


「パパは今まで、死んだママの分まで愛してくれて育ててくれた。その事を凄く感謝してる。だから今度は、パパに幸せになってもらいたい。私の事ばっかり気にかけてくれてるような感じがするんだ。」

「……」

「もっとさ、パパにその子との時間大事にしてほしい。その時間を作るのに私は自分が邪魔になるとは思ってない。でも、私が家にいると私の事心配しちゃうでしょ?」

「……娘だからな。」

「うん。でもね、もう大人だよ?私もその子も……」

「……!?」


 私の言いたい事が分かったのか、父は目を見開いて私を見た。


「結婚しちゃえば?長い事付き合ってるじゃん?」

「この子の親御さんになんて言われるか……」

「私が加勢するよ!!大丈夫、おばさん達その子がパパを好きなの知ってるし。」

「そうなのか……?」


 横に座る友人を見つめて問いかける父の目を見て、友人は答えた。


「はい。付き合ってる事も伝えてあります。」

「ほら!後はパパが勇気を出すだけなんだよ?」

「分かった。腹を決めるよ。」


 観念したように、情けなく笑ってから後日友人の両親に話をしに行くと父は言った。

 そして話は戻り、私が家を出るという話になった訳だが……


「何でダメなの!?」

「パパ達を応援してくれるなら、この家に残りなさいと言ってるだけだろう!!」

「それが、新婚の二人に悪いから出でくっていってるんでしょ!?」


 突然の親子喧嘩に、友人もタジタジになっていた。


「私はね、もっと広い世界を見たいの。パパのお陰で今まで何不自由なく育って来れた。大人になったんだから世界をもっと見てみたいって思うのは自然な事じゃないのかな?」

「……」

「あのっ……」


 黙ってしまった父に、友人が口添えしてくれた。


「この子だって何も考えていない訳じゃないですよ?」

「だが……」

「親だから心配する気持ちは分かります。でも私はそれほど心配はしてません。」

「どうして……?」

「だって、こんなにしっかりしてるんだし。貴方に似てなんでもそつなくこなせるんですもん。」


 満面の笑顔で父を黙らせてくれた友人に目配せで感謝する。かわいらしくウィンクで返ってきた。


「分かった。家を出ることを許そう。だけど条件がある。」

「何?」

「月に3回は絶対に連絡を入れる事、困った事があったら必ず頼る事。それと……」


 ゆっくりと私の顔を見て、父は言った。


「寂しくなったら、ここに帰ってくる事。」


 優しい笑顔で私にそう言ってくれた父にとても感謝した。






――1年後




「おめでとう!!」


 私は結婚式場に居た。語学留学の為、渡米していたのだが父と友人の結婚式に参列すべく日本に戻って来たのだ。


「ありがとう。」

「///……」


 友人の両親と、私だけしかいない小さな式だったけれど身内一同から祝福を受けての式はきっと贅沢な式だと思った。


「すぐ向こうに戻るの?」

「うん。まだまだ知りたい事が沢山あるし、彼氏も待ってるしね。」

「日本人なんだっけ?」

「そうそう。こっちの大学で知り合ったんだけど、意気投合しちゃってさ。」

「ふふっ」

「何よ?」

「ううん。”らしい”なぁって思っただけよ。」

「でしょ!!」


 いつか、私も友人見たいに幸せに笑えるだろうか。





――数日後アメリカ


「プラネタリウム行かない?」

「いいよ。ほんとに好きだよな?」

「大好きよ。だって、私が帰りたいと思う場所をいつも教えてくれるから。」


 彼と手を繋いで星空を見に行く。

 人工の夜空だけど、それでも「帰りたい場所」をいつも教えてくれる。


 見上げる度に思うのだろう。友人と初めて見に行ったプラネタリウムで思ったあの感動を。

 帰りたいと願った場所を……






最後まで読んでいただきありがとう御座います。


またご縁がありましたら、よろしくお願い致します。

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