そして初めて人を撃ちました
※残酷な描写があります。
昔、戦争がありました。たくさんの人が犠牲になりました。そんな忌々しい戦争が、終わってもうすぐ十年が経ちそうです。その戦争のお話を友人から聞く機会が先日ありました。
私の友人は、戦時中、少女兵として敵と戦っていました。なぜ軍人になったのか、と聞くと家族を養うためとのことでした。
確かに、戦時中は男女という性別なんて関係ありませんでした。友人は、彼女は仕方なく軍人になったそうです。
そんな彼女から、聞いた最初で最後の戦いのお話です。
東歴一九四五年、彼女は歩兵として西部戦線にマーリック小隊という小隊の一員として配属されました。先程、述べたように彼女はまだ少女でした。
「軍規」というものは、もちろん存在していたようですが、ここは戦場。男だらけの戦場です。ギリギリセーフとかいうヤバい奴が結構な頻度でいたそうです。……私には、無理です。まあ、戦争もごめんですが。
彼女は、当時は小柄だったから幼く見えて助かった、と笑顔で話されていましたが、そんなものでしょうか。
えっと、話がそれてしまいました。
一等兵という階級で配属された彼女。一等兵は、兵の中で、下から二番目です。
そう聞くと、半年から一年の戦場経験はあると考えられますが、なんと彼女は徴兵されてから一ヶ月ほどで、昇進したそうです。なぜ、そうなったのでしょうか。
一九四五年に入ってから、我が軍は破滅状態でした。彼女曰く「上官や同期がバンバン亡くなってしまった。西部戦線に行くまで、訓練していただけだったのに……」と。
しかし、まだ良かったのです。彼女は、一ヶ月も訓練ができたのです。同期は、すぐに前線行き。配属された小隊の二等兵たちは、つい数週間前に徴兵された兵たちだったそうです。
小隊に配属された彼女は、マーリック小隊長殿に敬礼とともに、着任報告をしました。そんな彼女にマーリック小隊長殿は、歓迎の声をかけました。
そして、小隊長殿は、彼女に慈しみの目を向けたそうです。一瞬のことでしたから、おそらく、ですが。
お子様でもいらしたのでしょうか。当時のマーリック小隊長殿の年齢的には考えられた話です。ご存命であったら、お子様がいらっしゃいますか。と、お聞ききしたかったと彼女はしみじみと言いました。
彼女以外の集まった兵たちにも、労いの言葉をかけた小隊長殿。そこだけ見ると、マーリックと言う男は、優しい性格だと思います。しかし、実際は違うそうです。
じゃあ、本当はどんな性格だったのかと、私が聞いても彼女は答えてくれませんでした。小隊長殿に口止めでもされているですか、と聞いても答えは返ってきませんでした。
彼女には珍しくお茶目な仕草をしていました。
……あぁ、もう!ごめんなさい。また話がそれてしまいました。二回目ですね。気をつけます。
さて、彼女を含む新兵らは、銃を取り扱うことから始まりました。(一応、彼女は昇進していますが、軍人歴は、一ヶ月ですので新兵です)元から小隊にいた先輩達に教えていただいたそうです。
彼女に、どんな感じだった?と聞くと
「いや〜、もうね。すごかったよ。筋肉痛で死ぬかと思ったほど」
……だそうです。暗い顔をしていたので相当でしょう。
その次は、散歩という名の肉体運動でした。ええ、すごかったそうです。連帯責任ということで、一人が離脱すると全員がやり直されたほど、厳しかったらしいです。
彼女的には、そこまでするか⁈という意見でしたが、後にこの訓練が役に立つ時がくるのはまだ知りませんでした。
そんな一日を数日、続けると嫌でも体力は増え、筋肉がつくものです。新兵は、余裕が生まれ笑顔が増えるようになりました。
訓練でギスギスしていた先輩後輩関係もお互いに冗談を言えるほど仲が良くなることができたそうです。
会話の内容は、自分がいつ、どこで、誰と、死ぬか。という人生のゴールでした。まだ、彼らは若かったのに。
ちなみに彼女は、大往生、が予定らしいです。
今は、明るい性格なのですが、当時は、恥ずかしがり屋で人と話すのが苦手だった彼女。しかし、彼女を心配して、話しかけてくれた新兵で、同い年の少年兵と仲を深めることができました。
彼女は、ふりかえます。
あの時が、戦場で一番楽しかった、と。
彼女は、例の少年兵と「死」について話していたとき、こう言われたそうです。
「死ぬなら、大切な人と死にたい。できるだけ沢山の敵を殺してから」
彼女は、自分はどのような顔をしていたのか、わからなかったそうです。
後方で、のんびりしていたのが罰だったのでしょうか。
「小隊、集合!」
マーリック小隊長殿の声が響きました。戦場にいるはずなのにずっと後方にいたからか、空気が緩んでいました。
その空気が一気に緊張で充満しました。彼女も西部戦線に配属された時の緊張感が蘇ります。
小隊長殿は、こう小隊一同に告げました。
「上からの命令だ。我が小隊は、チールフ川付近で戦闘せよ。……以上だ」
チールフ川——いわゆる死地です。昔からチールフ川付近に戦いに行く場合、生きて帰ることができないと言われてきました。
かつて川は、赤い色をしていたそうです。
マーリック小隊は死地に赴くことになりました。その時、誰も言わなかった言葉がありました。
——上は、我が小隊を捨て駒にした
敵が、チールフ川を超えてやってきた。それを止めろ。
小隊は、塹壕戦をすざるを得なかったのです。
「小隊長殿。質問していいですか?」
「よかろう。なんだ?」
先輩兵士が問いかけました。
「命令に逆らうつもりはありません。……ただ、上は小隊だけで敵を止める気なのですか?」
確かに考えてみたらおかしなことです。囮とかなら兎も角です。
小隊長殿は、息を深く吐きました。……それが答えです。
「あぁ。そういうことだ。情報によると、敵も小隊規模らしい」
「——成程」
彼女は、ここで悟りました。
本当に生きて帰れないと。
彼女は、知っていました。チールフ川のことを。しかし、微かな希望があったのでしょう。
——これが、戦争なんだ。
そう、彼女は思うことしかできませんでした。
「小隊一同!行くぞ!」
「はっ!」
小隊はチールフ川に向かって走り始めました。最低限の荷物を持って。
マーリック小隊が居た後方からチールフ川まで、距離は約10キロメートル。なぜ、歩きではなく、走ったのかは命令だからとその時は言われていましたが戦後、その命令の理由がわかりました。
理由は単純です。元々、チールフ川にいた味方が全滅したからでした。いや、全滅しかけていたからです。急いで塹壕に行かないと、突破されてしまいます。
この時、あの訓練が役に立った、と彼女は言います。
小隊はとりあえず走ればいいだけでした。強いて言えば、ところどころ出てくる敵兵を撃つことでしょうか。
ライフルを持ち、意気揚々とする者が大勢いる中、彼女は一人恐怖を感じていました。
この銃で。私が手を動かしたら。人の命が奪われる。
自慢ではないようですが、彼女は西部戦線に行くまでの訓練を含め、配属された後の訓練の射的は的中だったそうです。
訓練用の弾だったから。彼女は迷いなく撃つことができました。そして、ワクワクの気分で教官殿に褒められたそうです。
チールフ川の塹壕まであと5キロメートルでしょうか。新兵が疲れて、倒れ始めました。まだ敵兵はいない状態だったので、ここで倒れてしまったら困ります。
彼女は後輩新兵に比べると、訓練時間は長いですがそれでもギリギリでした。
「っは、は……は……、小隊長、殿。や、休みませんか」
「そんなことが、できたら。とっくに楽している!」
その時、彼女は叫びました。
「死ぬのは、戦ってからだよ!あ、アホ!!」
彼女なりの下士官同僚に対する怒りでした。
少し、優しい気もしますが。
残り二キロメートルまで行きました。もうそこまで来ると、地面が遺体で埋め尽くされていました。
中には、気が悪くなる者がいました。敵に家族を殺された者は、笑っていました。決して間違っている感情ではないのです。それが戦争だからです。
しかし、少しですが生きている敵がいました。ボロボロの軍服で血まみれの銃を取り祖国と戦友のために戦う姿勢は———我々にとっては面白い光景でした。
私自身は戦争に出たことはありません。敵も憎い相手ではありません。故郷が焼かれたら、それまでです。
彼女も家族のために軍人になりましたが、家族が亡くなったわけではありません。
彼女は怖かったそうです。——敵じゃなくて味方が。
敵が弾を撃つ前に、味方が撃つ。なんて頼もしくて怖いのでしょう。
彼女が言うには、小隊一同は笑っていたそうです。
まるで悪魔のように戦友の仇を討っていました。初めての戦争を体験する新兵は、家族と友人のために。
「っ、危ない!!」
「えっ」
トン……。彼女は誰かに押されました。
すぅ、と、彼女の頬が血で濡らします。
「あ、ありがとう……」
「これぐらい戦友のため。なんてことないさ」
友人の少年兵は首を振りました。彼もしりもちをついただけで怪我はありません。彼女はホッとしたのも束の間、弾が飛んできた方向を見ました。
おそらく彼女と同年代の少年兵がいました。敵兵は、二人をカッと睨みつけ——額から赤い液体が噴き出ました。
ふと、後ろを見ると。先輩がニヤニヤしながら見ていました。彼の銃から、微かに煙の匂いがしたそうです。
「あれ?◼️◼️◼️は?撃たないのか?討つなら今だぞ」
少年を撃った先輩兵士が彼女に声をかけます。
手が、震えていました。彼女はこの光景が信じられなかったのです。
息が上がって暑いはずなのに、寒さで凍えそうでした。
なにより、
「あなたも敵が、憎いのですか……?」
彼女と仲が良い少年も実に嬉しそうに、弾を撃っていたことに驚きを隠せませんでした。
「なんだい、◼️◼️◼️。敵が憎いのは君もじゃないのかい?」
「そ、それは……」
「……じゃあ、僕が死んだら、銃で敵を撃てる?」
彼女は、吸い込まされそうな目を目一杯開いて、こう答えました。
「……うん、そう、かも」
その後も敵が美味しいほど沢山出てきました。多少、犠牲者が出たもののマーリック小隊は走り続けることができたのでした。
とうとう、目的のチールフ川付近の塹壕に行くことができました。
彼らは移動を通して——はっきりと言いましょう。狂いました。
軍隊に入って、家族の仇を討って——戦友の仇も討つことができた小隊一同は清々しい顔で塹壕に入りました。
まるで、殺せと言わんばかりに。
彼女は理解していました。仇を討ったからここにもう用がない。大切な人に会いたい。そう、彼らは思っているのです。
それでも死ぬのは怖いという感情がある分、人間です。
——戦争が始まりました。
驚いたことがあります。なんと、我が軍の塹壕と敵の塹壕まで、約20メートルしか離れていなかったのです。これも戦後にわかった話ですが、敵は少しずつ前進しながら新しい塹壕を造っていたのです。
また、先にいた味方の損害が酷かったです。衛生兵は兵士の治療に努めましたが、死体は積み上がるばかりです。
塹壕も塹壕で、ところどころ壊れていました。歩くだけで吐き気がする塹壕で小隊は夜を迎えました。
先程、述べたように塹壕と塹壕の間が短いです。頑張れば、敵の足音も聞こえるのです。特に夜はシャベルの音が響いたそうです。
翌朝、マーリック小隊長殿は見てはいけないものを見てしまいました。
彼女は、病気レベルで青白い顔をしていました。そして、彼女は、こう呟きました。
「私のせいで……彼が死んだ。なら私も死ぬとしましょう」
マーリック小隊殿はたじろぎました。笑顔で訓練を受けていた彼女が?
水を目元につけた彼女は、マーリック小隊殿に飛びつきました。まだ、幼さが残る小さい手で。
「マーリック小隊長殿。どうしましょう。人を殺すのが楽しいのです」
よく見ると、彼女は口角を上げていました。銃から煙の匂いがします。
彼女は夜の間に。初めて人を撃ちました。
友人の彼の仇として。
銃の音が聞こえます。味方からも敵からも。
途中、敵からの方が大きくなりました。
味方は次々に死にました。
手榴弾を投げる音が聞こえ始めました。
「もう、無理だ」という声が響きました。
「死にたくない」という言葉とともに「死ななくては」という言葉が出ました。
敵が勢いを増しました。
なぜなら我が小隊長殿が殉死して、指揮官権が困難したからです。
夕方。
先輩は一人だけになりました。
先輩は言います。
「もう我々は無理だ。敵を止めることは不可能だ。最期の晩餐をしようじゃないか」
わぁぁぁー!!
歓声が上がりました。
最期だからと酒も許されました。彼女は飲める年齢ではなかったので、諦めましたが。
彼女も戦友のために、お国のために死ぬことにしました。どうせ生きて帰ることはできないですし。
晩餐の後。
再び、銃を手にしました。
敵がこっちに目掛けて、手榴弾を投げました。
みんな笑顔でした。
熱い。痛い。……怖い。
あれ?私はどうして怖いの?死ぬのが?
……ごめんなさい。家族のみんな。
さて、彼女の名前はリオンと言います。
私の名前もリオンです。
まあ、元々は佐藤結衣という名前で、プロゲーマーだったのですが……
そこは置いておきましょう。
リオンは死にました。最期の最後に彼女からいろんなことを聞きました。
聞いたというより、記憶が流れた、が正解かもしれません。
私がどうやって生き延びたか?それは内緒です。
戦争や軍隊についての知識が十分ではないため、実際の軍隊や軍事制度とは異なる部分があるかもしれません。
あくまで創作として読んでいただけると幸いです。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。




