ニジガミ探索隊
ニジガミ
暗く冷たい銀河を切り裂くように月へ前進する一隻の宇宙船。母なる地球はただ背後からその歩みを見守っていた。
数千年の時を共にした母なる星を離れ、月へと向かう。
目的は一つ、人類史上初の月面着陸。
それは千年の歴史を繋いだ人類史の集大成
壮大な希望を背負った宇宙船が今、静かな衝撃と共に月面へと到達した。
だが
事態は、ある「異物」の出現によって急変する。
宇宙船の扉が開き、人類が初めて踏み出すべきその未踏の砂塵の上。歴史的瞬間を捉えるはずだったカメラのレンズは…あり得ないものを映し出していた。
-月面に到達した人類を出迎えたのは
亜空間で浮遊する一冊の本だった-
[エガニスの書第一節]
『第二人類よ。
君たちは我ら第一人類の誇りだ』
『滅亡した我らの意思を引き継ぎ、
数千年の歴史を経て再び月へ到達した。
遂に其方らは神の試練へと挑戦する力を得た』
『この魔書に封印されし99の魔神のすべて打ち砕き、
人類滅亡の運命から脱却せよ』
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その日を境に
世界は――剣と魔法に包まれ…崩壊した。
第一話:ニジガミ探索隊
バカは馬鹿正直に異世界に潜る。
天才は異世界を利用する。
魔神によって崩壊したこの東京では
賢く生きれない奴から死んでいく。
そして俺は不死身なんだ。
「痛いぞアバン。お前さん、もうそんな厨二くさい哲学をドヤ顔で語る年頃じゃないだろ」
行きつけの喫茶店、尊敬していた店長は俺の哲学を容赦なく否定した。
「まぁ確かに俺は不死身じゃない。それは比喩みたいなもんで本題はな…」
「お前は天才でもない、ただの異世界バカだ。脳みそだけが異世界にして知能ゼロ。みそなしスカスカ頭蓋骨とスカスカの哲学、それがお前だ。」
こいつ俺の敵か?
この店が繁盛しているのは一体誰のおかげだとでも、
俺がよく[魔機師:ゼイダー]の知り合いや探索隊の同僚を連れてきて、
やっと店が成り立っているような状態じゃないか。
じゃなければ、辺り一平が水没し崩壊したこの東京の一角で喫茶店なんてまともに経営できるわけがない。
…まぁ確かに俺や俺の同僚のせいで、店の床が真っ二つに破壊されたり店が爆破したりなんてことが時々あるが、それは誤差の範囲だろう。
「それでどうした、アバン?朝ぱっらから陳腐な哲学を語り出して、何かいい異世界探索のいい計画でも思いついたのか?」
「その質問を待ってたんだ!」
軽妙なlo-fi音楽が鳴り響くチルな雰囲気漂う喫茶店。
カウンターデーブル挟んで向こう側のマスターを指差し、壮大な計画の全貌を語る。
「最近、新しい魔術発電所の建設が始まったらしい」
「あー、あれか?今まで以上に第一世界の技術を詰め込むらしいな。大丈夫なのか?」
「それが、全く大丈夫じゃない」
マスターはやっと俺の話に聞く耳をもったのか眉をひそめ始めた。
「渋谷に樹海ダンジョがあるだろ?そこのダンジョン近辺の水脈が、建設の影響で巨大な濁流を引き起こしているらしいんだ」
「ほう?それで」
「濁流ってのは土砂や瓦礫を強引に水が押し流すっていう災害だ」
「ダンジョンと水脈は繋がっている。なら土砂と一緒にダンジョン内のアイテムやお宝も一緒に流される可能性がある」
「なるぼど。最初に言ってたバカと天才ってのはそういうことか。
バカ正直に異世界やダンジョンに潜らずに、この状況を利用するのが天才だって言いたいのか?」
「そうだ!やっと理解してくれたようだな」
両手を組み、フッとほくそ笑んだ。計画は完壁。だが、そんな俺を小馬鹿にするようにマスターは続け様に語った
「その計画には先着がもういる。数時間前に全く同じことを語った客がいた」
「…は?」
「喜べアバン、天才は天才でもお前さんは孤独の天才では…」
マスターが言い切る前に、俺は店を飛び出した。
「チクショー!パクリやがって」
今日は昼から探索隊との予定があるがダンジョンのお宝を先に奪われるわけにはいかない。
「爆速で急がないとな」
俺は足裏に魔力を貯めると、それを力強く放って飛翔しビルの屋上へと着地した。
ビルの屋上からまた別の屋上へと飛翔と跳躍を繰り返し、最短ルートでダンジョンを目指す。
「到着だ」
広大な海。廃墟と化したビル群がその海上を埋め尽くしている。
海の潮風が、ビルとビルの間を縫うように駆け抜けていく。ビルの掠れた鉄の匂いと、生い茂る大樹の花粉の香りを一緒に連れて、潮風は都市の中心へと向かっていく。その風の行き着く先。
そこには、魔神の力に抗うように海面から聳え立つ『東京スカイツリー』の姿があった。
しかし、抗えど虚しく、スカイツリーの骨格にはその数倍の太さを持つ樹木が絡みついている。
絡みついた樹木はスカイツリーを媒介にし、根本から上へ上へと、螺旋階段のように渦巻きながら頂点へと到達していた。
今のスカイツリーは、巨大な世界樹そのものだ。
「「「ヴぅわーーーーー」」」
海面から誰かが助けを求める壮絶な叫び声が上がっていた。
その声の矛先に視線を向けると
サメ型の魔獣が一隻のボードを狂うように追いかけていた、
船上にはパーカーを深々と被った人物が、片手でボードを漕ぎもう片手で雷の魔術弾を魔獣に放ちながら
海面を縦横無尽に逃げ回る。
俺はビルの屋上から逃げ回る人物を、ジーーとその様子を今か、今かと仕掛ける頃合いを探して海面を見つめた。するとその瞬間が訪れた、
海面から吹き荒れた潮風が、ボートと少年を強く煽った。その人物が深々と被っていたパーカーのフードがバサりっと、行きよいよく外れる。
………男だった。
スッと俺は帰る準備を始めた。
その場を去ろうとした、その時、運悪く青年は俺の存在に気づいたらしい
「「「あのーーーー!」」」
「「そこの屋上のゼイダーさん!お願いします!助けてください!!」」
「「ていうか!俺が逃げ回っている間、もしかしてずっと
一言も言わずにそこで見てたんですか?」」
「「「しかも!なんか帰ろうとしてるし!!違いますよね!?見て捨てるとかじゃなくて」」」
「「「なんか僕を助ける策を練る為に背を向けてるんですよねね!」」」
俺の背中に彼の叫びが容赦なく刺さる、
(面倒くさいが、これだけハッキリと見つかってしまったのなら…もう仕方がない)
帰る身支度をしていた体を反転させ彼の方を向き直す。
海面で今もなお、彼は魔獣の容赦ない追従と攻撃に立ち向かう、その小さくそして勇敢な魔機師の姿がこの目に映る。
俺は大きいあくびを打ち、数秒息を整え、体の筋肉を伸ばし、足と手の関節をしっかりとほぐした。
準備完了。俺は少年に向かって叫んだ
「「「なんでこの俺様が」」美少女や子供ならともかく」」」
「「「朝っぱらから」」汗臭いガキを救わなきゃいけねーんだ!!」」」
俺の発言でガキの開いた口が塞がらない、
俺も、あくびのせいで開いた口が塞がらない
だが、
二人の魔機師が集中を欠いたその一瞬を
魔獣は見逃さなかった
海面からその巨体を大きく跳ね上げ飛翔する。魔獣は空を尾鰭で引き裂きボード一直接に急進。瞬く間に咆哮を上げながら、青年の一回りも、二回りも大きく血に飢えた大顎を開いた。
「あ……俺死ぬんだ」
「なんで……こんなことに…なんで」
この日のために…どれだけ準備してきたか…このボートだっていくらしたことか。
…なのに
目と網膜の前に広がるのは……白く光る無数の歯の刃、その一つ一つが俺の骨を、さぁ…どう砕こう、どう砕こうかとほくそ笑んでいるように思えた。
その白い歯とは対照的に魔獣の喉奥は吸い込まれそうな程に重たい黒色に染まっていた。
比喩ではなく本当の今で魔獣に体を吸い込まれそうになったその瞬間。
ドゴォォォォ――ン
耳を引き裂く爆音と共に、魔獣の皮膚が真っ赤に燃え上がる。
魔獣の白い歯は蝋燭のようにゆったり溶け落ち、魔獣の巨体全てが豪炎球の中に消えていった。
ボートが酷く揺れ海面が波立つ、それは魔獣や豪炎球の影響ではない。
恐怖に怯え閉じた瞼を開き前を向くと、数秒前までビルの屋上にいた彼がボートの先頭で、炎を全身から放ちながら鎮座していた。
アバンの鈍く、重い炎の焼却音が辺り一体に響く。
その音と見に纏う赤い炎を打ち消すように、冷たい声でアバンは青年に向かって言葉を放った。
「お前……正直…今…チビったろ?」
「チビってないっす」
「生意気な奴だな。このボード何円した?」
「8万円です」
俺はパチパチと火花が散る拳を、そっとボートの床に近づけてみせる。
「火災保険とか入ってる?」
「チビってました!チビってました!超助かりました」「ハハっ冗談だ一人で帰れるか?」
まぁこんな質問をしなくてもコイツは問題なさそうだな。
魔術のレベルはまだ荒削りだが、さっきの雷魔術のスジは良かった。
俺と同じくダンジョンの濁流を狙った計画を立てて。ボート内に散らばる、このお宝の数々を見るに、実際成功させたらしい。
随分とガッツのある奴だ。
「これどうぞ!本当に助かりました」
少年がお宝の中から一つ、立派な金剣を俺に手渡してきた、感謝のつもりらしい。会話の流れ的に側から見たらカツアゲだな。
金剣が朝日の光に反射で眩く輝いた、懐かしい光だ。
昔、兄貴が持っていた剣に似ている。
青年が剣を眺めながら思い耽る俺を、心配そうに見つめていた。
兄貴なら……例えそれが感謝の印だとしても、この剣を受け取ることはないだろうな。
だが兄貴は……死んだ。
金剣の刀身に、頼りなさそうにニヤついてる自分の表情が映る。
(ダサい奴だな…俺は)
兄貴と俺は違う、根本的に……全部が。
俺は俺の選択する。例えダサくても、ガムシャラに生きる。
受け取った金剣を空に向かって持ち上げた
「後悔すんなよ!後から返せってな」
「はい」
俺はそう言い残すと、足裏に再び魔力を込めボードを飛び立った。
魔神によって世界中が崩壊した。アフリカ大陸は消滅し日本列島は半壊、ユーラシア大陸は真っ二つに大陸分断。その他諸々壊滅。
こういう絶望的な状況なら、眉唾ものの伝説が生まれたってしょうがない。
[最後の楽園:ラストエデン]
この地球のどこかにあるという、第一人類が残した伝説の大陸。
その大陸には魔神も魔獣も一切侵入することができない、人類唯一の安息の地。
兄貴はその大陸を求めて旅立ち。そして死んだ。
俺たち探索隊はその無念を晴らしたい。
柄にもなくセンチメンタルな気分に浸りながら金剣を眺め続けていると、突然、ポケットの中でスマホがけたたましく震え出した。
現実に引き戻され、画面を見る。ディスプレイに表示された名前に、俺の背筋に冷たいものが走った。探索隊の同僚、スピカからだ。
「……最悪だ、約束の時間とっくに過ぎてる」
慌てて通話ボタンをスライドすると、案の定、スピカの怒号が鼓膜を引き裂いた。
「アンタたち、どこにいんのよ!!」
電話越しに弾ける獣のような怒号。これが俺の同僚、スピカだ。どうやら今日はいつも以上にカンカンらしい。鼓膜を守るため、俺はスマホを頬から数十センチ離し、空返事で嵐が過ぎるのを待った。
「そんでアンタいつ来んのさ!? 遅刻何回目? ツバサも来てないし……アバン!
君ねぇ! 事務所に着いたら覚えてなさい……ねぇ、聞いてる?」
あぁ、聞いてるよ。
「アバンテッカー史上最高の集中力を持って聞いてる。だけど……やばい、ダメだ集中力が……頼む、ポチッ!」
俺は勢いよく通話を切った。もしかしたら俺には演技の才能があるかもしれない。いや、転職もありかもしれない。
……まぁ、ないか。
スマホをポケットに突っ込み、俺はビルの屋上を全速力で蹴り出した。
目指すは渋谷郊外。船と飛行船という、崩壊後の二大交通手段が交差する中継地だ。さすがにここから事務所がある地下室まで、すべて徒歩と屋上ジャンプで移動していては日が暮れてしまう。
アスファルトを蹴り、ビルの隙間を飛び越え、空中を弾丸のように突き進む。風が顔を叩き、景色が高速で後ろへと流れていく。だが、どれだけ足を酷使してビルの屋上を渡り歩いても、スピカとの約束の時間には絶望的に間に合わない。
だからこその、渋谷郊外だ。
今の東京は、船も飛行船も便数が少ない上に、都内に駅の数がまったく足りていない。そのため、移動速度の速いゼイダーたちの間では、経由地からの『途中乗車』が半ば合法化されている。
全力疾走の末、視界が開けた。
渋谷郊外、船と飛行船が絶え間なく行き交う。
俺は見上げた。斜め上空を、鯨型の魔獣を媒介にした飛行船が横切ろうとしている。
タイミングを見計らい上空にジャンプすれば、飛行船に途中乗車できる寸法だ。
本来、途中乗車は「魔獣振動レベル3以上の緊急事態」にのみ許される[魔機師:ゼイター]の例外規則だが、
俺が遅刻してスピカに殺される危険性はすでに魔獣振動レベル5、条件は揃ったと言っていい。
俺は狙いを定め、ビルの屋上を深く踏みしめる。
ダイナミックな跳躍。飛行船に向けて精いっぱい足を伸ばし、正当性のある無賃乗車を成功させた。
ゔぉーーーーー」
腹の底に響くような鯨魔獣の咆哮が出発の合図だ。
巨大な鯨の背中には、要塞のような建築物が聳え立っている。船員たちはすぐさま魔術を発動させ、建築物から伸びた機械の触手を通して巨大な鯨を制御し、次の駅へと舵を切った。彼らは自身の仕事に必死で、ゼイダー達の姑息な無賃乗車などに気を留める暇もない。
俺はその建築物の屋上で、風に吹かれながら船員たちの作業を見つめた。涙を流した
「すまない、善良な市民達よ。これも君たちの衣食住を守る為の、ゼイダーとしての苦渋の決断なんだ」
「思ってもないこと言うじゃねーよ、バン」
聞き覚えのある声だった。
振り返ると、同僚のツバサが胡座をかいて座り、のんきにハンバーガーを咀嚼していた。
「ならよー、お前はちゃんとチケット買って乗車したのか!? ツバサ」
俺の問いに、ツバサはキョトンとした顔で答えた。
「チケットは買ってない。船員の作業現場に、セットメニューのポテトとケチャップを差し入れとしてこっそり置いて来た」
当たり前のことのように意味不明な情報を発するツバサ。俺が動揺する暇も与えず、野郎は至極冷静に言葉を続けた。
「スピカがブチギレながら電話してきたからよ。流石に店内でラクドナルドのハンバーガーをゆっくり食う暇もないなと思ってな。まぁ自己診断で魔獣振動は余裕で3超えだから、しょうがない面の方が多いって感じだったしな、仕方ねぇからテイクアウトで飛行船に乗車した」
俺はドン引きしながらツバサを見つめた。
(コイツは遅刻が確定している危機的状況下なのに、悪びれもせずハンバーガーを買いに行ったのか)
その上で無賃乗車をした。そして船員に悪いと感じ、セットのポテトを差し入れて罪を免れようとした。
肝が据わっているのか、馬鹿なのか、天然なのか。長年の付き合いを持つ同僚であるにも関わらず、俺はまだコイツの特殊な精神構造を理解できていないらしい。
その構造を解明すべく、俺はじっと目を見つめながらツバサに距離を詰めた。
ツバサは警戒するように眉をひそめ、俺に向かって叫んだ。
「俺……腹減ってるから、頼まれてもハンバーガーを半分こしてやんねぇからな?」
「…………………そうか……残念だな」
俺たちは空の上で冷たい風を、体一心に浴びながら渋谷から飛び立って行った。
船が目的地に到着した後、俺達は飛行船のチケット料金を船員室前に置き、そそくさと飛行船を後にした。
事務所へと向かうが、俺達の足取りとても重かった。
スピカからどのようなお叱りを受けるのだろうか、
そんな恐怖を募らせながら、事務所の扉を開く
「アンタら何やってんのよ!」
スピカの怒号が部屋中に響き渡る。
地上からの光が微かに差し込むだけの薄暗いワンルームの地下室。空間の大部分は、重厚な本棚と無機質なテーブルに占められている。壁一面には複雑な魔法陣が描かれ、部屋の中央では地球地図を映し出すテレビモニターが青白い光を放っていた。その手前の床には、粉っぽいチョークでびっしりと円形の魔法陣が描かれている。魔法陣への干渉を防ぐため、床には絨毯もクッション材も敷かれていない。
その魔法陣の外側に配置された大きなソファ。そこに深く腰掛け、スピカは腕と足を組んで俺たちを見下ろしていた。
俺とツバサは、むき出しのコンクリートの冷気が直接骨まで這い上がってくる床の上で、完全なる正座を強いられていた。
地面が……冷たい。足の指は少しずつ痺れ始め、膝の皿は今にもコンクリートの硬さに負けて真っ二つに割れそうだ。容赦のない正座の痛みがダイレクトに神経を削り続ける。最悪だ。俺は隣で同じく正座の刑に処されているツバサに目線を移した。
「あ………あ………」
ツバサはもうダメそうだな。完全に目の焦点が合っていない。
「そんで、なんで遅刻したの? アバン……ツバサ」
俺とツバサは目配せをし、どんな言い訳をするか1秒のアイコンタクトで協議した。俺はゆっくりと手を上げ、発言権を求める。
「ツバサがハンバーガーを半分こしてくれなかったから遅刻しました」
「何言ってんだバン!! お前もその時すでに遅刻してただろ!」
呆れ果てた顔で立ち上がると、スピカは本棚から重々しい一冊の本を取り出した。
「いい? 遅刻したんだから、その分のお宝収益をしっかり減らさせてもらうから。
そ・ん・な・こ・と・よ・り
今回、私が手に入れた魔書はこの『ユノンの書』。
第一人類のユノンは由緒正しい辺境貴族の令嬢様だったの!」
「しかし彼女には大きな秘密があった。それは同じ貴族である家族の母や兄ですら知らない秘密。
私の推測では、この秘密は絶対……金銀財宝の類よ!! なぜなら文献によれば、ユノンが住まう土地は宝石採掘で有名な土地だったの!」
「故に彼女は貴族の権力と財力でとんでもない宝石を手に入れ、それを家族にすら伝えずに……第一人類は滅びましたとさ……」
「だが………しかし!!! 私たちは今からユノンの書の世界に潜り!! 宝石を現代に持ち帰り………売り捌け………ば!」
「バン! どうなる!!」
「億千万円長者」
「そう、億千万円長者になるんだーー! わーはーはーっは!」
スピカの演説と笑い方は、側から見れば完全に三下悪役のそれだった。この貧相な地下事務所と姑息な作戦内容が、その三下感をより一層引き立てている。
「スピカ、バン。もう俺の足は死にそうだ。このまま壊死する前に、さっさと第一世界に潜ろう」
ツバサは生まれたての子鹿のように足をガクガクと震わせながら立ち上がり、チョークで描かれた魔法陣の円内に入って坐禅を組み始めた。
「そうね、さっさと魔書探索を始めて億千万長者になるのよ」
「そう言って、俺たち毎回失敗してるんだよな」
俺のぼやきに、坐禅を組み始めたスピカが鋭い眼光を向けてきた。
「それでも結局、地道に魔書に潜るしかないでしょ。楽園の手がかりも魔書達の中にしかないわけだし」
俺はため息をつきながら、手に握った金の剣を見つめた。
「そうだな…アイツの無念も晴らさないと」
そう言って俺も魔法陣の中に入って坐禅を組んだ。
俺たち3人は円型の魔法陣内でお互いを対角線で繋ぎ綺麗な三角形の陣形をとり、一斉に目を閉じた。
「始めるか」
体の最深部に意識を沈め、神経を限界まで尖らせる。
目頭が焼け付くように熱くなり、頭蓋骨が内側から搾り取られるほどの圧力をかける。肉体が耐えきれなくなる境界線まで、自らの意識を極限まで追い込んでいく。
体中の細胞たちが恐怖に震え出し、肉体が小刻みに痙攣を始めた。
心臓の鼓動が爆発的に加速する。血液が体中で乱回転を起こし、血管は今にも弾け飛びそうだった。
だが、止めはしない。寸前なんてまだ足りない。恐怖を感じているうちは未熟だ。爆散しろ血管なんて。心臓なんて破裂してしまえ。
主が生きるために、生命の危機から守るために
生涯を尽くしてきた細胞たちは、突如として狂気を孕んだ主の自傷行為と、崩れ落ちていく体内構造を目の当たりにする。そして、ついにその論理と感情を崩壊させた。
――だが、まだ終わりではない。
自死を選択し、極限状態に陥った主を救済するため、細胞たちは人類の生命史に存在しない
「新たなシステム」を構築し始める。
崩壊していった身体回路を強引に繋ぎ止めるように生まれた新システム。
それは、赤い血とは対極をなす、青白く光る流体エネルギー。
『魔力』。
暗い地下室に、3本の青白い光の柱が漏れ出す。
俺たちは暴走するバリオンで全身を包み込み、熱して溶け落ちそうな肉体を冷却するように、何秒も、何秒も、深く深く深呼吸を繰り返した。
臨界点を超えた3人は同時に目を開き、互いの青く光る瞳を見つめ合う。
魔法陣が虹色に波動を放ち、眩しく重たい光が三人に突き刺さる。
その光を打ち消すように、声を重ねて詠唱を紡いだ。
「「「兄弟よ。其方たちの覇道を、再びこの身に再臨する権限を」」」
「「「神が0を創造し、其方らが1を生み出した。我らが99を打ち滅ぼし、2つの人類に繁栄をもたらす」」」
「「「魔書は開かれ、天門の光が注ぎ込む。」」」
「「「「ユノンの書、探索開始」」」




