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憑依

作者: 豆苗4
掲載日:2026/03/08

 何故かそれに憑依してしまっていた。それは不可逆的にかつ断続的に発生した。眼差しを介して、肉体を介して、記憶を介在にして。もちろん、そうなる予定も、そうするつもりはなかった。しかし、それは起こった。半ば強引に引きずられるようにして。


 憑依してしまう。乗ってしまう。引きずってしまう。乗り込んでしまう。ぶつかってしまう。セックスしてしまう。衝突してしまう。どんな仕方でも構わないのだが、ともかく、それは起こった。重要なのはその先、いや……そうではなく……それそのもの、その事象自体なのだ。ともかくそこにそれはあった。


 剥落、結合、分裂、エロス、離人、逸脱、感染。


 それは強烈に発生した。ひょいひょいとついていってしまう。いや、ついていった。これは誘拐ではなかった。歴とした道案内であった。確かに、流れに流されていた。しかし、その一貫性のなさには一貫性がある。幽霊の足跡を辿ったのではない。私はあの時まさしく死者だったのだ!


 今ここでそのことをある種の錯視のように、あるいは幻覚のように表現するのは忍びない。誰に対して? 後ろめたさがひっきりなしに私を貫く。書くことは何かと断絶することであり、切断することではない。しかし、その断絶が、露出した断面が、その痕跡が、私にそれを見せるのだ。かつて起こった、そして起こりえなかった事物の記憶を。


 延長された四肢が、雨粒となって激しく窓を叩く。トレース。トレースのトレース。模写。鏡写し。写像。記憶と風景と匂いが流れ込んでくる。抗えない強引さでもって私を引きずっていく。


 絵そのものと絵を描くことはまったく別物である。絵の息遣いがそれを如実に示している。呼吸。タッチ。間。色使い。空気。筆の重さ。絵の具の匂い。光。窓。温度。頬の強張り。時間。tention。風景。記憶。夢。煤けた壁。筆。筆。筆。筆の先端。画材との接触面。extention。白昼夢。汗。手汗。瞬き。眼差し。傷。像。目。鼻。文章と文章を書くことしかり、ダンスと踊ることしかり。像と彫像を模ることしかり。


 それはそこに飛び込んでいくこと。ダイブすること。えいっと突っ込んでいくこと。その運動こそがそれを引き留め、一瞬だけでも滞留させることができるのだろう。それもすぐに蒸発してしまうのだが。


 一つの記憶として流れ込んでくる。抗えない。抗いようがなかった。私の意思とは無関係に、否応なしに流れ込んだ。それはまさしく、歩くこと。眠ること。道路とセックスすること。雨に降られること。転ぶこと。翻弄されること。夢見られたもの。衝突、攪拌、セックス、ダイブ、切断、アセファル、眼差し、幽霊、花。


 息遣い、いや、そうではなく……なんと言ったらいいのか……とにかく……生々しい。あれは、吐き気を催すほどに強烈で、目眩がするほどぐにゃぐにゃで、眼差しに痛いほど晒される。ガラガラと崩れ去る音が耳に鮮烈にこびりつく。壁という壁が剥がれ落ちる。頭が割れるように痛い。罪。罪悪。醜悪。悲劇。不条理。愛。太陽。眩いほどの光に焼かれて融けてしまえたらどんなに良かったことか! 影が、仄暗い影がいつもついて回るというのに……。


 物理的な、非常に物理的なものだった。身体性が、リズムが、それらの間にひしめいている。


 それはある種、弱さみたいなものだ。やりきれなさ、不安定さ、言い淀み、揺らぎ、分裂みたいなもの。それはわずかな余地、隙間から顔を覗かせる。でもその時に限って、いやもしかしたらそれ以降もずっとそうなのかもしれないが、それはネガティブなものではなくて、ものを語る時には決して引き離すことのできない何かが漂っていた。それを身体性と呼ぶのかもしれないが……そう呼ぶのには何故かためらいがある。何故…..何故なのか? それは身体ではなく、また別の何か……。


 呼吸、瞬き、眼差し、酷暑、蝉の音、喉を伝う汗、じりじりと汗ばむ肉体、水、影、不快に思えるほどの湿気、茹だるほどの熱、あれは確かに一回きりのものだった。確かに。しかし……その光景が目に焼き付いて消えないのだ。あれは、誰かの夢でも記憶でもない。そう、確かに出現していたのだ。ここに!


 書くことは肉体的でないように思えて、ひどく肉体的な試みなのだ。それは私だけのためのものであり、それ故にあらゆる死者のためのものなのだ。

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