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第5話 ラーメン、回収不能 (出汁は船内回遊)

ラーメンです。宇宙で食べるラーメン。故郷の味がします。楽しみです。

宇宙船《アルデバラン号》の厨房に、禁断の献立が貼られた日。

そこには太字で致命的にこう書いてあった。

本日の特別:ラーメン

挿絵(By みてみん)


リョウ(若手)が思わず拝んだ。

「……神メニュー……」

ユイ(衛生担当)が眉をひそめる。

「汁物は要注意です。液体は漂います」

補給係ゴロウが胸を張る。

「大丈夫です!“宇宙対応どんぶり”あります!」

ユイが即答する。

「その言葉、信用したら負けだと学びました」


料理長マキは静かに頷いた。

「やる。だが条件がある。

ツユは“漏らさない”じゃない。“回収できる”状態で作る」

なるほど、とリョウは思った。

食べるより回収が先。宇宙のラーメンは、哲学だった。


仕込みは完璧だった。

スープは粘度を上げた“宇宙仕様”。

麺は短く、具材は固定カップ。

どんぶりは磁気トレーに吸着し、横には万が一用のラップまである。

ユイが珍しく頷く。

「……今日は勝てるかもしれません」

ゴロウがニヤリ。

「リングは割引で――」

「黙って」


いよいよ盛り付け。

マキがスープを注ぐ。黄金色のツユが器に広がり、麺が沈む。

香りが立った瞬間、厨房の空気が一段上等になった。

その瞬間。

『重力制御システム、定期再起動。三、二、一――』

挿絵(By みてみん)


「やっぱり!?」

ユイの声が裏返り、リョウはどんぶりを抱え、ゴロウはラップを取り、

ミサキはいつものように引きつり、マキは何も言わない。


ふわり。無重力。

どんぶりは磁気トレーに固定されている。麺も短い。具材もまだ少し。


――問題は、ツユだけだった。

ツユが器からゆっくり持ち上がり、どんぶりから出て球体になろうとする。

ゴロウがラップを掛けようとするが、間一髪間に合わない。

短い麺も浮き上がる。ナルトたちも。


マキが淡々と指示する。

「空調最低。気流を止めろ」

ユイが即座に操作し、厨房が静まる。

挿絵(By みてみん)


ツユの球体は、静かに浮いている。

「これ、どうやって食べるんです?」とリョウ。

ユイが即答する。

「食べません。まず回収です」

「回収って、飲めば――」

「飲むなー!」


マキが言う。

「作戦は単純だ。球体を“吸う”。戻す。封じる」

ゴロウが得意げに取り出した。

「スープ回収用ストロー!宇宙仕様!」

ユイが目を細める。

「ただの太いストローですよね」

「宇宙では――」

「太くてもただのストローです」

「どこかのシェークより吸うの無理!」

リョウが吸う。

粘度を上げすぎたスープは、宇宙では“優秀”すぎた。

吸引に抵抗して、逆にストローごと押し返す。

「うぅっ、ツユが強い!」

「強いツユって何!」とユイ。

ゴロウが言う。

「高粘度、最高の味です!」

「味の問題じゃない!」


マキが次の手を出す。

「ポンプだ」

取り出したのは小型の手動ポンプ。

先端をツユ球体に当て、ゆっくり吸い出す。

ツユが少しずつ、管の中へ入る。

いける。いけるぞ――。


その瞬間、ポンプの接続部が“カチッ”と外れた。

船内ディスカウントストアの割引品の宿命だった。


ぷるん、とツユ球体が解放され、厨房中央へ浮かび出す。

「出た!」

「出すな!」

「誰だ外したの!」

「割引商品です!」

「黙って!」

ツユ球体は照明を反射して、やけに美しい琥珀色の惑星になった。

麺やナルトたちもお供する。

挿絵(By みてみん)


しばし全員が見とれ――

ユイが叫ぶ。

「見とれるな!回収!封鎖!」

しかし、ツユは気流の残りに乗り、ゆっくり換気口へ向かう。

この船における“最悪の就職先”だ。


マキが低い声で言う。

「最終手段。麺で取る」

「麺で!?」

「麺は吸着材だ。信じろ」


リョウがどんぶりから麺を持ち上げ、ツユ球体に近づける。

麺が触れた瞬間、ツユが一部絡みつく。確かに取れる。だが――

取れるのは“一部”だけだった。

ツユ球体の残りは、ぷるんと形を保ったまま逃げる。

麺に絡んだ分だけ、球体は少し小さくなる。

つまり、回収のほどんどが“食べる行為”になっていく。


ユイが冷たく言う。

「それ、回収じゃなくて試食です」

リョウが必死に言い訳する。

「いや、回収です!回収の一形態です!仕事です!」

『重力制御、復旧します』


ずん、と床が戻る。

――そして、現実が落ちた。

挿絵(By みてみん)


換気口の前で踏ん張っていたツユ球体が、重力で“べしゃっ”と広がり、

見事に床へ着地……する前に、一部換気の吸い込みに吸われた。

ゴォォ……。

静かに、ツユが消えた。

床に着陸したツユと麺やナルトの残骸。


厨房は、しんとした。

リョウが震え声で聞いた。

「……ツユ、どこ行きました?」

ユイが遠い目で言う。

「船のどこかで生きています」

ゴロウが明るく言う。

「永久資産ですね!」


ユイが無言で手袋を投げた。

マキは残った“麺と具だけ”を見下ろした。

スープのないラーメンは、ただの切ない祭りの後だ。


食堂から通信が入る。

『さっきのラーメン、 追加あります?』

リョウが叫ぶ。

「ツユが無いです!」

ユイが言う。

「正確には、回収不能です」

ゴロウが言う。

「割引のツユ、買いましょうか?」

「黙って!」


マキはトレーを整え、淡々と答えた。

「追加は無理だよ。今日は――汁なしでいく」

そして、誰にも聞こえないくらい小さな声で、達観したように言った。

「宇宙じゃ。ラーメンは作れても、ツユは“旅立つ”」


(つづく)

汁なしラーメンって実際ありますよね。私食べた事無いですけど。出汁を通してあればそれなりに食べれるのですかね?

次回、いよいよ”あいつら”です・・・

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