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中卒家を出る

「ゆうすけ、そろそろ家出るよ」


「わかった、すぐ行く」

母さんの話から始まった高校に行くかどうか問題は一悶着あったが、俺は高校に通う決断をした。

その次の日、早速学校に行くことになった。

どうやら、編入希望者は面談という名の実質面接があるらしい。

「そりゃ、いきなり合格な訳ないか..」


「なにボソボソ言ってるの。早く身だしなみ整えなさい。私もう化粧終わるわよ。」

まだ身だしなみ整えてないのかい。

心の中でツッコミつつ、髪を整える。


「全然上手く立ち上がらないな」

普段髪をセットせず、店の手伝いの時もヘアバンドでかきあげてただけなので、ヘアセットがかなり難しい。


「にしても、学力試験とかないんだね」


「そりゃそうよ。青春することが第一の学校なんだから。ゆうすけには好都合じゃない。」

母さんは鏡を見て、化粧の出来に満足そうにしながら言った。


「まあそれもそうだけど。俺ももう家出れるよ」


「私もバッチリ!じゃあ行こっか」

俺が荷物を持つと同時に父さんが起きてきた。


「もう行くのか」

腹をかきながら聞いてきた。家と厨房とのギャップにはまだ慣れない。


「朝からだと夜だけでも営業できるからね」

父さんと母さんは学校のために店を閉めることを提案してくれていたが、そういう訳にもいかないので、夜までには間に合うように面談を設定してくれた。


「だめだなまだ真面目が抜けとらん」


「だって、1日しか経ってないもん」


「まあ、頑張ってこい」

父さんのたまに出るポジティブ発言には悔しいが、嬉しい気持ちになってしまう。

ギリイケおじ認定できるのではないかと考えたが、すぐ余計なことを考えるのを辞めた。


「じゃあ行ってきます」

俺は普段通りではない高揚感を感じながら、玄関の扉を開けた。 



駅に着くと、すぐに高揚感が疲労感へと変わった。

「人が多すぎる...」


「そりゃそうよ。出勤ラッシュだし、堺東駅だからね。乗り換え駅に加え、市役所もあるんだから。」

母さんは話しながら忍者の様に人ごみを抜け、さらに改札を抜けていった。

学校に通うことになれば、基本毎日この人混みを味わうことになると思うと、胃が痛くなった。

「母さんトイレ行っていい?」


「ダメよ。もう電車来るんだから」


「泉ヶ丘駅だっけ?最寄り駅」


「そうよ。15くらいで着くんだがら我慢しなさい。」


「この腹痛で満員電車は...」


「まもなく、和泉中央駅行きの電車が参ります」

腹痛の辛さを伝えようとした瞬間、電車のアナウンスが流れた。

そして、腹痛と戦うことを決めた。



「あー!スッキリしたぁ!」

無事、電車内で耐えることができた。


「ゆうすけ長い。長すぎる。」


「なんだよそんな携帯cmみたいに」


「トイレよ!もう面談まで時間ないわよ!走るわよ!」


「えっ、ちょっと」

もう既に母さんは走り出していた。人の目が多い中で、すっごく目立つ。元陸上部は伊達じゃない。

俺も慌てて着いて行くが、母さんのせいで周囲の視線を感じる。


「母さんめっちゃ見られてる」

俺の苦言は母さんが走り去ったあとの風とともに消えていった。


「ここまで来ればもう安心ね」


「なんでそんな体力あるんだよ」

息が荒い俺の横で母さん息切れを見せることなく、堂々歩いている。俺もランニング始めようかな。


「学校の近くになると学生さんが多いわね」


「たしかに。駅でたら一気に学生が増えた。にしてもちょっとカップルが多すぎる気がするんだが。」

俺の前を歩いている学生の多くが2人並んで歩いている。男と女で。


「そりゃそうよ。青春第一の学校なんだから。恋と青春は同義よ!私なんて昔...」


「わかったって。母さんの昔話」


「えぇ、なんでよ」


「そんかことより今学校って春休みだよね。授業もないのにこんなに学生がいるんだ」


「そりゃそうよ。みんなきっと部活よ。青春第一の学校なんだから。部活と青春は同義よ!」

青春のカバー範囲広すぎだろ。


「部活って言えば、母さんが陸上部...」


「もういいって。昔話」

母さんが気にせず自分語りをしているのをよそに、俺は目の前に見えてきた校舎を見上げた。


「すんごい綺麗じゃん。なにこれ。」


「でしょ!学校自体できたばっかりらしいのよ。校舎って大事よ。やっぱり綺麗だとワクワクするし、トイレもきっとウォッシュレットついてるんでしょーね。母さんゆうすけが羨ましい。私が高校生の時なんて...

何回やるんだこのくだり。

この人どの角度からでも自分語りできるなと感心しているうちに気づけば門の前についた。


「到着よ。さあ、早速入りましょ」


「なんだが、緊張してきた」


「大丈夫よ。面談は私も同席していいらしいから」


「あ、そうなの?ちょっと安心した」


「可愛いらしいこと言うじゃない。応接室があるみたいだからまずはそこに行くわよ」


「え!もう行くの?」


「当たり前じゃない。じゃあなによ。ここに突っ立ておくの?」


「いやそう言う訳ではないけど、その心の準備とか」


「誰が門の前で心の準備するのよ。普通は面談前に心の準備よ。これだから中卒は」


「すごっ」

母さんの唐突な中卒いじりに大ダメージを受けたが、おかげで緊張がほぐれた。


「ここまで来たのが大きな一歩よ。あとは普通に歩き出せばいいのよ」

母さんが優しい顔で語りかける。


「そうだね。ありがとう母さん」

俺は肩の力を抜き、門を通り抜けた。

門を抜ける小さな一歩がとても大きな一歩に感じた。


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