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8.はじめての森歩き

「あっ!でびりんちゃんだ!」


 背中のリリが突然嬉しそうな声を上げた。


「え?どこ?」

「あしょこ!」


 リリが指差す方向を探すと、湖のほとりに黒い塊が動いていた。

 遠すぎてデビリンだかどうだかわからん。


「あんなに遠いのにわかるの?」

「うん!リリはかくだいできるから」

「拡大?なにそれすごい!」

「だって、かくだいできないと、だんじょんの中をみれないでしょ?

 だんじょんこあはみんなできるんだよ」


 デフォなのか!ダンジョンコアすげえな!

 ああ、でも、広い階層作ったら拡大機能ないと仕事になんないか。なるほどねえ。

 

「みりねえ、行ってみよう!」

「デビリンのところに?」

「うん!いんぺーまほーあるからこわくないよ?」


 おお、そういえば今は隠蔽魔法中だった。

 齧られた身としてはちょっと怖さは残っているが、万一気づかれてもダンジョンに転移できるんだから、木の陰から覗くくらいならいけるか。


「よし。行ってみようか。

 危なくなったら転移お願いね」

「うん!おかあしゃんもしっかりみてるからだいじょうぶだって!」

「そっか。コアちゃんもよろしくね」

 監視中のコアちゃんにもお願いしておく。

 心強い。


 湖の方向と目の前に広がる風景をしっかり記憶して、私たちは山を下りる。

 途中に崩れた崖があるので、そこを経由して行ってみようと思う。


 コアちゃんのダンジョン知識によれば、魔石は主に魔物の体内で作られるらしいが、それ以外にも普通の鉱物が濃い魔素の中で変質するものもあるとのことなので、崖に行けばひとつくらい見つかるんじゃないか、という希望的観測に基づくルート決定である。


 そもそも、コアちゃんも私も、もちろんリリも、魔石の実物を見たことがないのだ。

 ダンジョン知識に画像データはないらしく、ラノベの進化途中の鑑定魔法みたいな説明だけなので、まずは色々な石を集めて、魔石の正体を知らなければならない。

 いや、必要なのは石に溜め込まれた魔力なので、魔石かどうかは関係ないのか。


「リリは魔力のある石ってわかる?」


 洞窟前を通り過ぎ、崖に向かって歩きながら、リリに聞いてみる。

 特に期待していたわけではない、ただの雑談である。


「えーとねえ、おかあしゃんはたべたらわかるっていってたよ?」

「え!?食べる?

 石は食べちゃダメです!」


 ダンジョン的に重要なのはそっちじゃないと思ったが、親的には娘の石を食べる宣言の方に反応せざるを得ない。


「えー?だっておかあしゃんもわたちもだんじょんこあだから、ましぇきはたべてもいいんだよ?」

「マジ!?」


 そう言われればそのような気もするけど……。


「じゃあミリねえ、あしょこの石をとって?きいろいの」


 肩越しに指差されたあたりを見ると、確かに黄色くて四角い石が落ちている。

 拾ってリリに手渡す。


「これ?」

「うん。

 むー……。わかりまちた!こりぇはまりょくがありまちぇん」


 石を捨てたリリが、水晶玉を見る占い師みたいな口調で告げる。


「なるほどぉ、リリはすごいね」

「しゅごくないでしゅ。おしごとでしゅから!」


 プロ意識溢れる幼女にニマニマが止まらなかった。

 顔が見れないのが実に残念である。


 ほどなく到着した崖は、山の木を巻き込んできれいに崩れていた。

 洞窟のある巨大な岩の出っ張り部分が崩落した跡だ。


 落石の心配がないことを確認して、私は崩れた岩を物色する。

 ほとんどがよくあるただの岩だ。私が見ただけでも魔力なんてありそうにない。

 そんな中で、白く濁った石が目に留まった。

 これは前世で見たことがある。石英ってやつだ。

 確か、鉱物としては水晶と同じものだったはず。


 水晶って、いかにも魔力を含んでそうじゃない?って思って、リリに見てもらった。


「ちょっとだけありましゅ」

「おお!」

「でもぽいんとにならないくらいちょっとでしゅ」


 まあ、そう簡単にはいかないか。

 でも水晶系が魔石になるものだってことはわかった。

 腰のマジックバッグに放り込めばいいだけだから、とりあえず拾えるだけ拾っておいて、魔素が濃い場所に置いておけばいいかな。

 問題があるとすれば、そんな場所知らないことだが。

あと、私が魔素ってなんだかわかってないこともか。


 幸い今はダンジョン知識を背負っている。

 教えてもらおう。


「リリ、魔素ってどういうものか知ってる?」

「あい。ましょはくうきの中にあって、見えないものでしゅ。

 じめんとかみじゅにもふくまれていましゅ。

 いきものとか石とかにはいるとかたまってまりょくになるでしゅ」

「へえ……」


 知らんかった。

 てことは、私は今魔素を呼吸してるのね。

 あれ?


「リリ、じゃあさ、私は今も魔力を作ってるってこと?」

「あい。まものもだんじょんも、しょうやってしじぇんかいふくしましゅ」

「なるほどぉ、自然回復かあ。1日3DPだっけ?」

「あい。ちょっとだけでしゅ。でもたべればふえましゅ」

「そうだねえ。食べたら増えるねえ」

 

 結局は魔石ってことか。

 石英もほぼ拾い終わったし、森を探しますか。


 私は、崖に背を向け、デビリンがいた湖を目指し森へと足を踏み入れる。


 陽の当たる森の入口付近には少しだけ下草が茂っていたが、森の中に進むにつれてそれも見えなくなり、地面は黒い土に変わる。

 見上げる木々の葉は厚く茂っていて、届く陽は頼りない。

 巨木が支配する古い森だ。

外から見たとおり落ち葉は少なく、木の根や岩に気をつけさえすれば、そんなに歩きにくいこともなかった。


 前世での経験が皆無でも、地元民の体は森モードに入ったようで、自然に体が動く。

 森歩き楽しいじゃないか!


 少し余裕が出てきた私は、あたりを観察しながら歩みを進める。


 森の木は、前世で言う広葉樹のようで、松や杉っぽい木は見当たらない。

 食べられそうなものも見つかっていない。

 キノコは何種類か見つけたが、色合い的に毒っぽかったので触らない。

 秋ならば色々な森の恵みが期待できたのに、今は多分初夏だからなあ。


 魔物は、一度大きな角のある猪っぽいやつを見かけた。

 リリがフォレストスピアボアっていう名前だと教えてくれた。魔物らしい。

 身を固くしながら木の陰でジッとしていたら、その脇を通って森の奥に消えていった。

 隠蔽魔法が優秀で助かったよ。

 

 鳥の声が小さく聴こえるけど、姿は見当たらない。巨木の上に棲んでいて、ここまでは下りてこないのかもしれない。

 あとは、木の根元の何かの巣穴っぽいやつくらいだ。穴の大きさからみて兎とかかな。

 素手で捕まえられるわけもないので、当然スルーした。


 ためらわず森の奥に進む。転移があるから迷う心配はないし帰りも一瞬だから気が楽だ。

 小1時間歩いたところで、木の向こうに水面が見えてきた。


 覗き込むとデビリンはまだ湖の側で丸くなっていた。食休み中かな。

 魚は丸ごと食べたらしく、残骸は見当たらない。

 冬眠前のアラスカの熊はおなかの部分だけ食べて残すらしいけど、デビリンはお残ししない主義らしい。えらい。


 湖もデビリンも静かだ。

 湖は直径500メートルくらいの円形で、狭い草地がぐるっと周りを囲んでいる。

 流れ込む川はないから、湧き水のようだ。透明度が高い。


 デビリンがいるせいか、近寄る動物もいない。

 しばらく見ていたが動きそうにないので帰ろうかと思ったが、ついでに湖から流れ出している川を見てみることにして、私たちはその場を後にした。

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